従事者指定義務(法第11条第1項関係)

2020年6月(2022年6月施行)改正前の公益通報者保護報では、事業者に対する公益通報者特定情報の秘匿を義務付ける明示的な規定はありませんでした。
もっとも、公益通報をしたことが明らかになることで、不利益な取り扱いを受けることを危惧して通報を躊躇する場合があることは容易に想定されますので、公益通報をしたことが明らかにされないことは、公益通報保護制度の重要な部分となります。

消費者庁における、平成28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書によると、内部通報制度の信頼性・安心性向上のための方策に関する質問に対しては、秘密が守られていることを従業員に周知しているが82.7%、窓口担当者に守秘義務を課しているが81.9%と、いずれも8割以上を占めています。

そこで、2020年6月改正法では、事業者に対して、従事者を指定する義務を課すことになりました(法第11条第1項)。

これに関して、令和3年8月20日内閣府告示第118号では、従事者の定め(法第11条1項関係)として、事業者は、内部公益通報窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならないとし、事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない、と記載しています。

従事者指定義務に違反した場合の効果

事業者が、従事者指定義務に違反した場合には、内閣総理大臣(法第19条に基づき消費者庁長官へ委任)による指導助言、勧告の対象となります(法第15条)。
また、内閣総理大臣(消費者庁長官)からの勧告に従わなかったときは、公表の対象となります(法第16条)。

従事者の守秘義務の対象となる情報

従事者の守秘義務の対象となる情報は、公益通報対応業務に関して知り得た事項であり、かつ、公益通報者を特定されるものです。

公益通報者を特定させる事項とは、排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できる事項・情報をいいます。公益通報者の氏名や肩書(部署、役職、社員番号)などの他にも、性別等の一般的な属性であっても、他の事項と照合させることにより、排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できる場合には、公益通報者を特定させる事項に該当します。例えば、総務部に女性が1名のみ在籍する会社において、総務部の女性が通報したという情報は、総務部には女性が1名しかいないという事項と照合することで、排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できることから、公益通報者を特定させる事項に該当することになります。

従事者が禁止される行為

公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない、と規定されています(法第12条)。

公益通報に対する調査等のために情報を共有する必要がある場合があるため、正当な理由がなく公益通報者を特定させる情報を漏らすことが禁止されています。
そして、この守秘義務は異動や退職後も続くことになり、期限の定めはありません。

従事者が守秘義務に違反した場合

従事者が、守秘義務に違反して情報を漏らす等した場合には、30万円以下の罰金が科されることとなります(法21条)。
また、守秘義務違反により不利益な取り扱いが行われたような場合には、精神的苦痛による慰謝料請求といった民事上の責任が生じることも考えられます。