2020年6月(2022年6月施行)改正前の公益通報者保護法では、事業者に対して不利益取扱禁止の法的義務を定めていましたが、事業者が積極的にとるべき措置としては、是正結果等の通知に関する努力義務が定められるのみでした。そのため、内通通報に対して適切な調査、是正、再発防止策を講じる仕組みが整備されていなかったり、整備されていたとしても実効性を欠き、不祥事が発生してしまうことが問題とされました。

そこで、同月の改正では、事業者は、内部公益通報に対応する体制を整備することが義務づけられました。
また、2021年8月20日内閣府告示第118号では、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るための指針」が定められました。

従事者指定義務(法第11条1項)

改正前の公益通報者保護法では、誰が公益通報をしたのかといった公益通報者を特定する情報を秘匿することに関する明示的な規定はありませんでした。
そのため、改正法では、事業者は、内部公益通報に関して部署横断的に対応する業務を行うものとして、公益通報対応業務従事者(以下、従事者)を定めなければならない、とされました(法第11条1項)。
そして、従事者及び同従事者であった者は、正当な理由なく当該業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならず(法第12条)、違反した場合には30万円以下の罰金に処せられます(法第21条)。

なお、指針では「事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない」とし、「事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない」と規定しています。

体制整備等義務(第11条2項)

法第11条2項では、事業者に対して、内部公益通報に応じ、適切に対応するための必要な体制の整備その他の必要な措置が義務づけられました。
そのうえで、指針では、事業者の内部公益通報体制の整備その他の必要な措置として、以下の内容が規定されています。

部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備のための措置

1, 内部公益通報受付窓口の設置等
内部公益通報受付窓口を設置し、当該窓口に寄せられるる内部公益通報を受け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定める。

2, 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
内部公益通報窓口において受け付ける内部公益通報に係る公益通報対応業務に関して、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとる。

3, 公益通報対応業務の実施に関する措置
内部公益通報受付窓口において内部公益通報を受け付け、正当な理由がある場合を除いて、必要な調査を実施する。そして、当該調査の結果、通報対象事実に係る法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正措置をとる。また、是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置をとる。

4, 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
内部公益通報窓口において受け付ける内部公益通報に関し行われる公益通報対応業務について、事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとる。

また、事業者は、公益通報者を保護する体制の整備として、次の措置をとらなければならないとされます。

公益通報者を保護する体制の整備のための措置

1, 不利益な取扱の防止に関する措置
・事業者の労働者及び役員等が不利益な取り扱いを受けることを防ぐための措置を取るとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
・不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。

2, 範囲外共有等の防止に関する措置
・事業者の労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
・事業者の労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる。
・範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行なった労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。

内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置

1, 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
イ 法及び内部公益通報対応体制について、労働者等及び役員並びに退職者に対して教育・周知を行う。また、従事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取り扱いについて、特に十分に教育を行う。
ロ 労働者等及び役員並びに退職者から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応する。

2, 是正措置等の通知に関する措置
 書面により内部公益通報を受けた場合において、当該内部公益通報に係る通報対象事実の中止その他是正に必要な措置をとったときはその旨を、当該内部公益通報に係る通報対象事実がないときはその旨を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、当該内部公益通報を行なった者に対し、速やかに通知する。

3, 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
イ 内部公益通報への対応に関する記録を作成し、適切な期間保管する。
ロ 内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて内部公益通報対応体制の改善を行う。
ハ 内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者等及び役員に開示する。

4, 内部規定の策定及び運用に関する措置
 この指針において求められる事項について、内部規定において定め、また、当該規定の定めに従って運用する。

違反した場合の措置

上記の義務に違反した場合には、次のように規定されています。

報告徴収等(法第15条)

従事者指定義務(法第11条1項)及び体制整備等義務(法第11条2項)が適切に履行されているかを確認するため、内閣総理大臣(法第19条に基づき消費者庁長官へ委任されています)は、事業者に対して報告徴収を行う権限が認められています。
また、これらの義務が適切に履行されていないと疑われる場合には、事業者に対して助言、指導、勧告をすることが規定されています(法第15条)。

勧告に従わない場合の公表(法第16条)

内閣総理大臣は、事業者に対して勧告をした場合において、勧告を受けた事業者が従わなかった場合には、その旨を公表することができます(法第16条)。

罰則(法第22条)

法第15条に定められた報告徴収に対して、報告をせず又は虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料が定められています(法第22条)。