匿名通報への対応

前回は、事業者として内部公益通報に対応するための体制の整備についてご紹介しました。
では、通報が匿名であった場合、事業者としてはどのように対応すればよいのでしょうか。

公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説

公益通報者保護法では、事業者に対して公益通報対応体制整備を義務付けています(第11条第1項及び第2項)。
そして、内閣総理大臣は、これらの事項に関する指針を定めると規定されています(同条第4項)。
これを受けて、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号)において、事業者がとるべき措置の概要が示されています。
そして、この事業者がどのような措置をとるべきかを検討する際の参考として、この指針の解説が示されています。
この解説では、指針を遵守するために参考となる考え方や指針が求める措置に関する取組例や、
指針を遵守するためのの取組みを超えて、事業者が自主的に取り組むことが期待される推奨事項に関する考え方や具体例が示されています。

今回は、この解説で示された匿名での通報への対応についてご紹介します。

公益通報対応業務の実施に関する措置

まず、指針として以下の内容が規定されています。

内部公益通報受付窓口において内部公益通報を受け付け、正当な理由がある場合を除いて、必要な調査を実施する。
そして、当該調査の結果、通報対象事実に係る法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正に必要な措置をとる。
また、是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、
適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置をとる。

そもそも公益通報者保護法が、公益通報を通じて法令を遵守することを目的としており、
法令の遵守のためには、内部公益通報に対して適切に受付、調査が行われ、
当該調査の結果、通報対象事実に係る法令違反行為が明らかになった場合には、是正に必要な措置がとられる必要があります。
また、法令違反違反行為の是正後に再度類似の行為が行われるおそれもあることから、
是正措置が機能しているか否かを確認する必要もあります。
この指針は、このような理由から規定されたものになります。

指針を遵守するための考え方や具体例

そのうえで、指針の解説では、内部公益通報対応の実効性を確保するため、匿名の内部通報も受け付けることが必要であると規定しています。
そして、この注では、匿名の通報であっても、法第3条第1号及び第6条第1号に定める要件を満たす通報は、内部通報に含まれると明記しています。
そのため、匿名の通報であっても、公益通報者保護法が定める要件に該当する場合には、内部公益通報として受け付ける必要があります。

では、匿名の通報者との間では、どのような方法で連絡を取り合えば良いのでしょうか。
指針の解説では、例えば、
受け付けた際に個人が特定できないメールアドレスを利用して連絡するよう伝える、
匿名での連絡を可能とする仕組み(外部窓口(内部公益通報受付窓口を事業者外部(外部委託先、親会社等)に設置した場合における当該窓口)
から事業者に公益通報者の氏名等を伝えない仕組み、チャット等の専用のシステム等)
を導入する等の方法が考えられる、と記載しています。

内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置(是正措置等の通知に関する措置)

まず、指針として以下の内容が規定されています。

書面により内部公益通報を受けた場合において、
当該内部公益通報に係る通報対象事実の中止その他是正に必要な措置をとったときはその旨を、
当該内部公益通報に係る通報対象事実がないときはその旨を、
適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、
当該内部公益通報を行なった者に対し、速やかに通知する。

この指針は、内部公益通報をした者は、事業者からの情報提供がなければ、
内部公益通報について是正に必要な措置がとられたか否かについて知り得ない場合が多いと考えられ、
行政機関等に公益通報すべきか、調査の進捗を待つべきかを判断することが困難であるため、
利害関係人のプライバシーを侵害するおそれがある等、内部公益通報をした者に対してつまびらかに情報を明らかにすることに支障がある場合を除いて、
内部公益通報への対応家かを内部公益通報をした者に伝える必要があるため、規定されました。

指針を遵守するための考え方や具体例

指針の解説では、通知の態様として一律のものが想定されているものではなく、
例えば、公益通報者個人に通知をする、全社的な再発防止策をとる必要がある場合に労働者等及び役員全員に対応状況の概要を定期的に伝える等、
状況に応じた様々な方法が考えられるとしています。
そして、是正措置等の通知を行わないことがやむを得ない場合としては、
例えば、公益通報者が通知を望まない場合、匿名による通報であるため公益通報者への通知が困難である場合等が考えられるとしています。
そのため、匿名による通報の場合において、公益通報者への通知が困難である場合には、
是正措置等の通知を行わない場合もあり得るということになります。

もっとも、一般的に内部公益通報は、匿名によるものが多いと思われますので、この指針及び解説の内容を踏まえて、適切に対応する必要があります。