企業不祥事を通報する際に、次に該当する人が公益通報者保護法による保護の対象となります。
労働者
労働者とは、労働基準法第9条に規定する労働者のことをいいます。正社員はもちろん、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーのほかに、公務員も含まれます。
労働契約法第9条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事業所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
退職者
退職者とは、通報の日前1年以内に雇用元(勤務先)で働いていた人を指します。
派遣労働者については、通報の日前1年以内に、派遣労働者として派遣先で働いていた人になります。
雇用関係にある労働者は、引き続き事業所内で働き続ける立場にあるため、
事業者の法令違反を知ったとしても、通報したことによる不利益を想定して通報しないことも多いのが現状です。
一方、すでに退職した労働者は、事業者との間に雇用関係はないため、心理的にも通報しやすくなると考えられます。
また、退職者が通報を行なったところ、退職者に対する不利益な取り扱い(退職金の不支給、退職年金の支給停止、再雇用の拒否等)を受けた事案も見受けられたため、令和2年の法改正において通報者に該当することとされました。
役員
役員とは、法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び精算人のほか、法令の規定に基づき法人の経営に従事している者(会計監査人を除く。)をいいます(会計監査人は、金融商品取引法等の個別法で義務が定められています)。
事業者の役員は、当該事業者の内部事情をよく知りうる立場にあり、不正行為を是正すべきです。
そして、実際に事業所の役員からの通報により不正行為の是正が行われた事例もあります。
また、役員が通報したことを理由に不利益を受けた事例があることから、令和2年の法改正において通報者に該当することとされました。
ただし、役員の場合には、事業者外部への通報が公益通報として保護されるためには、原則として、事業者内部で調査是正措置をとることに努めたことが必要となります(法6条2項イ・3号イ)。
これは、役員には、事業者に対して善管注意義務(民法644条)・善管注意義務(会社法355条)を負っており、事業者内部で法令違反の事実やその兆候を発見した場合には、これらの義務の履行の一環として、自らその調査及び是正に努める必要があります。
そのため、事業者の外部への通報が公益通報として保護されるには、事業所内部で調査是正そちをとることに努めたことが必要とされました。
もっとも、個人の生命もしくは身体に対する危害または個人の財産に対する損害が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合には、利益保護の重要性と可及的速やかな是正のために、調査是正措置を前置する必要はありません(法6条2項ロ・3号ロ)。
主体についての補足
通報の主体には、取引先事業者の労働者、退職者、役員も含まれます。ここにいう「取引先事業者」は、請負契約の相手方事業者のほか、卸売業者などとの継続的な物品納入契約、清掃業者などとの継続的な役務提供契約、コンサルティング会社などの継続的な雇用契約などの相手方事業者も該当します。