厚生労働省は、パワハラに関して、事業主が雇用管理上講ずべき措置についての指針を策定しています。
この指針では、パワハラに該当すると考えられる代表的な6つの言動を例示していますので、ご紹介します。

①身体的な攻撃

(該当すると考えられる例)
・殴打、足蹴りを行うこと
・相手に物を投げつけること

(該当しないと考えられる例)
・誤ってぶつかること

②精神的な攻撃
(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)

(該当すると考えられる例)
・人格を否定するような言動を行うこと(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む)
・業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと
・他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと
・相手の能力を否定し、罵倒するような内容のメール等を当該相手を含む複数の労働者宛に送信すること

(該当しないと考えられる例)
・遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること
・その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること

③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

(該当すると考えられる例)
・自分の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長時間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること
・一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること

(該当しないと考えられる例)
・新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること
・懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること

④過大な要求
(業務上明らかに不当なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)

(該当すると考えられる例)
・長時間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること
・新規採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること
・労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること

(該当しないと考えられる例)
・労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること
・業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること

⑤過小な要求
(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

(該当すると考えられる例)
・管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること
・気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと

(該当しないと考えられる例)
・労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること

個の侵害
(私的なことに過度に立ち入ること)

(該当すると考えられる例)
・労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること
・労働者の性的指向・性自認や病歴、不眠治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること

(該当しないと考えられる例)
・労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと
・労働者の了解を得て、労働者の性的指向・性自認や病歴、不眠治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと。この点、プライバシー保護の環k店から機微な個人情報を暴露することのないよう、労働者に周知・啓発する等の措置を講じることが必要である

以上が、パワハラ指針において例示されている内容となります。
ハラスメントとは、本来的には嫌がらせやいじめという意味であることをご紹介しましたが、該当する例をみると、その本来的な意味の内容が伝わるのではないかと思います。

なお、パワハラに該当する言動は、優越的な関係を背景として行われたものであることが前提となります。
また、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であることも必要ですが、この判断においては諸要素(当該言動の目的、当該言動が行われた経緯や状況など)を総合的に判断することになります。
さらに、労働者の就業環境が害されたといえるかは、平均的な労働者の感じ方が基準となるとされます。

このようなことを考えると、例示された内容を踏まえても、会社内で問題と思われる言動が、パワハラに該当するか否かの境界の判断は非常に難しいものがあることが想定されます。
実際の裁判例においても、一審と二審では判断が異なった事例もあります。

このようなことを考えると、パワハラに関しては、問題と思われる言動を放置するのではなく、研修や講演を受けることで、パワハラに関する意識を啓発して、問題行動を事前に予防することが重要であると考えられます。