令和7年6月4日、公益通報者保護法が改正され、可決成立しました。
公益通報者保護法は、平成16年に制定され、その後、令和2年に一度改正されました。このときの附則において、施工後3年を目処とする検討規定が設けられていました。
消費者庁は、令和2年の改正法附則の検討規定に基づき、公益通報者保護法制度検討会を設置して、制度の課題と対応について検討してきました。
今回は、この「公益通報者保護法の一部を改正する法律 (令和7年法律第62号)」の概要をご紹介します。
通報者保護の強化
今回の改正では、内部通報制度を取り巻く社会状況の変化に対応し、より実効性のある公益通報者保護制度を構築することを主眼としています。事業者にとって「何をすべきか」が明確になり、違反した場合のペナルティも強化されました。
フリーランスの保護強化
今回の改正により、公益通報の主体に、以下の者が追加されました。
・事業者と業務委託関係にあるフリーランスおよび業務委託関係が終了して1年以内のフリーランス(新法2条1項3号)
・取引先事業者と業務委託関係にあるフリーランスおよび業務委託関係が終了して1年以内のフリーランス(新法2条1項4号)
フリーランスは、取引先の労働者と同様に取引先の不正を知ることができる立場にある一方で、労働者と比較して弱い立場にあることが多く、公益通報を理由とした業務委託契約の解除等の不利益を受けるリスクが高いため、公益通報者の保護対象となりました。
そして、事業者は、フリーランスが公益通報をしたことを理由として、業務委託契約の解除、取引の数量の削減、取引の停止、報酬の減額その他不利益な取り扱いを行うことが禁止されます(新法第5条)。
従事者指定義務に係る消費者庁の権限の強化
事業者の従事者指定義務違反に関して、以下のように行政措置権限が強化されました。
・勧告に従わない場合の命令(新法15条の2第2項)
・命令した場合の公表(同条3項)
・立入検査(新法16条1項)
・命令違反及び検査拒否等に対する罰則(新法21条2項)
なお、今回の改正により、従事者指定義務違反は、公益通報者保護法上の通報対象事実となるため、事業者の違反に対する通公益通報が見込まれます。
また、公益通報の促進のため、事業者が整備した公益通報への対応体制について、労働者等に対する周知義務が規定されました(新法11条2項)。
通報妨害の禁止及び無効
これまで、公益通報をしない約束といった公益通報を妨害する行為を禁止する規定はありませんでした。
そこで、今回の改正において、事業者が正当な理由がなく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること、公益通報をした場合に不利益な取り扱いをすることを告げることその他の行為によって、公益通報を妨げてはならないと規定されました(新法11条の2第1項)。
通報者探索の禁止
公益通報がなされた場合に、事業者内で公益通報者を探す行為は、公益通報保護に抵触する行為であり、適切な公益通報を訴外する大きな要因である。改正前においても、法定指針において、事業者には公益通報者を探索することを防止するための体制整備が義務付けられていたものの、十分に理解されていないと思われた。
そのため、今回の改正では、事業者が正当な理由がなく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為を禁止した(新法11条の3)。
これにより、公益通報者の探索行為が違法であることが明確とされた。
不利益な取り扱いの抑止
改正法では、公益通報を理由とする労働者への不利益取扱いに対する立証責任が転換されました。
民事訴訟においては、公益通報者自身が不利益取扱いと公益通報の因果関係を具体的に特定し、立証することが困難であり、このことが公益通報者の保護における大きな課題とされていました。
この立証の困難さを解消し、通報者保護の実効性を高めるために、本改正で立証責任転換が導入されました。
改正法では、公益通報者に対する解雇等特定不利益取扱い(解雇・懲戒)が、公益通報をした日から1年以内にされたときは、その不利益取扱は、公益通報をしたことを理由としてなされたものと推定されます(新法3条3項)。
そのため、公益通報者が解雇・懲戒の無効を主張する場合には、事業者がその不利益取扱いが公益通報とは無関係であることの立証責任を負います。これにより、公益通報者がより救済を受けやすくなることが期待されています。
刑事罰の導入
これまで、公益通報を理由とする労働者への不利益取扱いに対しては、その行為を無効または禁止することでその抑制を図ってきました。
しかしながら、これらの無効・禁止によっては、抑止力としては十分ではないという観点から、改正法では、公益通報者が新法3条1項各号に定める公益通報をしたことを理由として、解雇・懲戒をしたときは、当該違反行為をした者は、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処することを規定しました(新法21条1項)。
また、両罰規定として、事業者が法人の場合には3000万円以下の罰金刑、個人の場合は30万円以下の罰金刑が規定されました(新法23条)。
改正法は、一部の附則規定を除き、公布の日である令和7年6月11日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとされています(改正法附則1条)。
事業者としては、公益通報への対応の体制を実効的に整備することが求められます。