令和6年12月27日、公益通報者保護制度検討会から、公益通報者保護法の制度見直しを内容とする公益通報者保護制度検討会が発表されました。
この検討会は、令和2年改正の附則第5条の検討規定に基づき、 近年の国内外の動向を踏まえた我が国の公益通報者保護制度の課題と対応について検討を行うため消費者庁に設置されたもので、令和6年5月から有識者による議論を進めてきました。
そして、公益通報者保護制度の実効性を向上し、国民生活の安心と安全を確保するための制度の見直しの方向性を検討会の提言として取りまとめがなされましたので、今回は、この報告書の概要について、ご紹介します。

制度見直しの必要性

今回の報告書では、制度見直しの必要性について以下のように説明されています。
公益通報者保護法は、令和2年に改正されたましたが、制度を巡る国内外の状況を踏まえると、 公益通報者の保護や事業者の体制整備とその実効性に関し、 引き続き課題が多く、 国民の安心・安全を脅かすような不正の発生を防止し、 我が国の企業が海外進出や投資などで悪影響を受けることがないよう、可能な限り早期に課題に対処し、制度の高度化を図る必要があるとしたうえで、具体的には、立法事実を踏まえ、

①事業者における体制整備義務の履行の徹底や実効性向上を図ること
②労働者等による公益通報を阻害する要因に適切に対処すること
③公益通報を理由とする不利益な取扱いを抑止し、救済措置を強化すること
④公益通報の実施状況や不利益な取扱いの実態に併せて通報主体の範囲を拡大すること

等が考えられるとし、公益通報者保護制度が実効的に機能し、不正が早期に発見・是正され、国民の生命・身体・財産その他の利益の保護が確実に図られるようにすべきである、としています。

事業者における体制整備義務の履行の徹底や実効性向上

この点については、公益通報者保護法では、事業者の体制整備の中核的役割を果たす特に重要なものであるとして、従事者指定義務及び従事者の守秘義務を規定されてます。

しかしながら、
・従事者の守秘義務違反には刑事罰を規定している一方、事業者の従事者指定義務違反には、刑事罰を規定しておらず、事業者の義務の履行に対するディスインセンティブになっていること
・ 消費者庁の実態調査等から、従事者指定義務の履行は徹底されておらず、義務を履行する意識が低い事業者が一定程度存在すること

が明らかになりました。
そして、従事者指定義務の違反事業者に対する行政措置権限の強化を求める意見があったを踏まえ、従事者指定義務の違反事業者に対する行政措置権限の強化を求める意見が出されています。

また、従事者指定義務の履行徹底に向けて、消費者庁の行政措置権限を強化すべきとし、具体的には、現行法の報告徴収、指導・助言、勧告、勧告に従わない場合の公表に加え、立入検査権や勧告に従わない場合の命令権を規定し、事業者に対し、是正すべき旨の命令を行っても違反が是正されない場合には、刑事罰を科すこととすべきであるとの提言がなされています。

加えて、令和5年度の消費者庁の実態調査によると、 従業員数 300 人超の事業者に勤める就労者のうち、 内部通報制度を理解している割合や内部通報窓口を認知している割合は全体の半数に届いておらず、上述の実態調査で、勤務先で重大な法令違反を目撃したと仮定した場合、「たぶん相談・通報しない」又は「絶対相談・通報しない」と回答した通報意欲の低い就労者にその理由を尋ねたところ、「誰に相談・通報したら良いのか分からないから」との回答が最も多く、 体制が整備されていないことの他、 体制が十分に認知されていないことが通報意欲の低下につながっていると認められました。
そのため、事業者が整備した公益通報への対応体制について、 現状、法定指針で事業者に求めている労働者及び派遣労働者に対する周知が徹底されるよう、体制整備義務の例示として、法律で周知義務を明示すべきであるとの指摘もされています。

公益通報を阻害する要因への対処

この点については、通報者探索の防止が体制整備義務の具体的措置として、公益通報者保護法に基づく法定指針として定められていますが、裁判事例などから、 通報者の探索行為をすべきではないことが事業者に十分理解されていない懸念があると指摘されました。

そのため、法律上、正当な理由がなく、 労働者等に公益通報者である旨を明らかにすることを要求する行為等、 公益通報者を特定することを目的とする行為を禁止する規定を設けるべきである、と提言されました。

また、証拠となる資料がなければ、通報先に対して、 公益通報者が見聞きした不正行為の存在を証明することができないが、公益通報のために必要な資料収集・持出し行為が事業者による不利益な取扱いの理由となるおそれがあり、 そのことが公益通報を躊躇する要因になっているとの指摘があることを踏まえ、公益通報のために必要で社会的相当性を逸脱せず、目的外で利用しない限り、資料収集・持出し行為が免責されるよう規定を設けるべきとの意見が出されました。

公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済

この点については、公益通報を理由とする不利益な取扱い(例:解雇、降格、減給、不利益な配置転換、嫌がらせ)は法で禁止されているが、近年の裁判例においても、労働者に対する不利益な取扱いが、 不正行為を通報したことに対する制裁を目的としたものと認定された事案があるとし、不利益な取扱いについて、民事裁判を通じて事後的な救済を図る負担は大きく、依然として、労働者が通報を躊躇する大きな要因となっていることを踏まえて、これまで、 民事上の禁止規定のみでは抑止力として不十分であるとの指摘がなされてきました。
そのため、 公益通報者保護制度に対する社会一般の信頼と公益通報をした個人の職業人生や生活の安定を保護法益として、 禁止規定に違反した事業者及び個人に対して刑事罰を規定すべきである、と提言されました。

通報主体や保護される者の範囲拡大

まず、働き方の多様化の進化に伴い、従業員のいない個人事業者や一人社長など、いわゆるフリーランスという働き方が増えています。
そこで、公益通報の主体に事業者と業務委託関係にあるフリーランス(法人成りしているフリーランスの場合はその役員である個人)及び業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスを追加し、フリーランスが法第3条第 1 項各号に定める保護要件を満たす公益通報をしたことを理由として、事業者が当該フリーランスに対して、業務委託契約の解除、取引の数量の削減、取引の停止、報酬の減額その他の不利益な取扱いを行うことを禁止すべきである、と提言がなされました。

今回の提言書では、この他にも様々な意見等が記載されており、今後はこの提言書の内容を踏まえて具体的な法改正がなされることになります。公益通報者保護法への対応の参考に、この提言書の概要をご紹介しました。