今回は、マタハラ(マタニティーハラスメント)についてご紹介します。


マタハラに関して、事業主は、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法に基づいて、上司や同僚からの職場でのハラスメント防止のための措置を講ずる必要があります。
マタハラは、一般的には、職場における、女性の妊娠・出産等に関するハラスメントとされますが、厚生労働省の関係資料では、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策と捉えられており、育児休業まで含むものとして規定されています。
また、同省によると、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントは、職場において行われる上司・同僚からの言動により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることとされていますので、女性だけでなく、男性労働者にも共通する問題として対応する必要があります(「職場におけるパワーハラスメント対策、セクシャルハラスメント対策、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です」より)。

まず、男女雇用機会均等法第11条の3は「事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、・・・その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、・・・雇用上必要な措置を講じなければならない」と規定しています。

そして、厚生労働省から、事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針が示されています(令和2年1月15日厚生労働省告示第6号)。
ここでは、事業主が妊娠・出産等に関するハラスメントとして、妊娠、出産等に関する否定的な言動に、不妊治療に対する否定的な言動が含まれることが明示されています。。

妊娠・出産、育児休業、介護休業に関するハラスメントは、制度等の利用への嫌がらせ型と状態への嫌がらせ型に分けられます。

制度等の利用への嫌がらせ型

男女雇用機会均等法が対象とする制度又は措置は、以下の内容となります。
・産前休業
・妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)
・簡易な業務への転換
・変形労働時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業の制限
・育児時間
・坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限

状態への嫌がらせ型

女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等に関する言動により就業環境が害されるものをいいます。対象となるのは、以下の内容となります。
・妊娠したこと
・出産したこと
・産後の就業制限の規定により就業できず、又は産後休業をしたこと
・妊娠又は出産に起因する状況により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと(「妊娠又は出産に起因する症状」とは、つわり、妊娠悪阻(にんしんおそ)、切迫流産、出産後の回復不全等、妊娠又は出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状をいいます)
・坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと又はこれらの業務に従事しなかったこと

防止措置が必要となるハラスメントは、①解雇その他不利益な取り扱いを示唆するものと、②制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの、③制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするものが挙げられます。

①解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの

労働者が、制度の利用の請求等をしたい旨を上司に相談したことや制度等の利用の請求等をしたこと、制度等の利用をしたことにより、上司がその労働者に対し、解雇その他不利益な取り扱いを示唆することをいいます。

(典型例)
・産前休業の取得を上司に相談したところ、「休みを取るなら辞めてもらう」と言われた
・時間外労働の免除について上司に相談したところ、「次の査定の際は昇進しないと思え」と言われた

ハラスメント行為者になり得るのは上司となります。労働者への直接的な言動である場合であり、1回の言動でも該当します。

②制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの

例として、以下のような言動が該当します。

・労働者が制度の利用を請求したい旨を上司に相談したところ、上司がその労働者に対し、請求をしないように言うこと
・労働者が制度の利用の請求をしたところ、上司がその労働者に対し、請求を取り下げるよう言うこと
・労働者が制度の利用の請求をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚がその労働者に対し、繰り返し又は継続的に、請求をしないように言うこと
・労働者が制度利用の請求をしたところ、同僚がその労働者に対し、繰り返し又は継続的に、その請求等を取り下げるように言うこと

ハラスメント行為者となり得るのは、上司・同僚です。
上司がこのような言動をおこなった場合は、1回でも該当しますが、同僚がこのような言動を行った場合には、繰り返し又は継続的なものが該当します。

③制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするもの

労働者が制度等の利用をしたところ、上司・同僚がその労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすることをいいます。
「嫌がらせ等」とは、嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと、又は専ら雑務に従事させることをいいます。

(典型例)
・上司・同僚が「所定外労働の制限をしている人にはたいした仕事はさせられない」と繰り返し又は継続的に言い、専ら雑務のみさせられる状況となっており、就業する上でカカできない程度の支障が生じている(意に反することを明示した場合に、さらに行われる言動も含む)
・上司・同僚が「自分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない。迷惑だ。」と繰り返し又は継続的に言い、就業をする上で看過できない程度の支障が生じている(意に反することを明示した場合に、さらに行われる言動も含む)

ハラスメント行為者になり得るのは上司又は同僚となります。上司、同僚のいずれの場合であっても、繰り返し又は継続的なもの(意に反することを伝えているにもかかわらず、さらにこのような言動が行われる場合はさらに繰り返し又は継続的であることは要しません)が該当します。

次に、上記②の制度については、男女雇用機会法及び育児・介護休業法がそれぞれ規定しています。

男女雇用機会均等法が対象とする制度又は措置

・産前休業
・妊娠中および出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)
・軽易な業務への転換
・変形労働時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業の制限
・育児時間
・坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限

育児・介護救護法が対象とする制度又は措置

・育児休業
・介護休業
・子の看護休暇
・介護休暇
・所定外労働の制限
・時間外労働の制限
・深夜業の制限
◯育児のための所定労働時間の短縮措置
◯始業時刻変更等の措置
◯介護のための所定労働時間の短縮等の措置
なお、◯印については就業規則で措置が講じられていることが必要です