今回は、パワハラの具体的な内容についてご紹介します。

法律成立の経緯

パワハラは、略称が労働施策総合推進法と呼ばれる法律(パワハラ防止法)のなかで、事業主に対して、パワハラ防止のための措置を義務付けるという形で規定されました。2022年4月1日からは、中小企業を含む全ての企業に対して、パワハラ防止のための措置が義務づけられています。
もともと、パワハラの法整備のきっかけは、働き方改革でした。2017年に、働き方改革実現会議から働き方実行計画が出され、同一労働同一賃金に関する法整備や労働基準法の改正に加えて、職場の人間関係づくりに関する法整備への言及がなされました。そして、この計画に基つきパワハラへの法整備が検討されるようになったのです。

パワハラ防止法の内容

パワハラ防止法では、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(第30条の2第1項)と規定しています。

このように、パワハラとは、①職場であること、②優越的な関係を背景とした言動であること、③業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること、④労働者の就業環境が害されるものであること、という4つの要件を満たすものを指すことになります。
そして、厚生労働省の「パワハラ防止指針」では、この4つについての説明がなされています。そこで、これらの内容をみていきます。

①職場であること

「職場」は、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所をいいます。また、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行される場所については「職場」に含まれるとされます。そのため、出張先や取引先との打ち合わせ場所なども、「職場」となります。なお、ここでいう「労働者」には、正社員以外にも、パートタイム・契約社員などの方も含まれます。

②優越的な関係を背景とした言動

「優越的な関係を背景とした」とは、当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされるものに対して、抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものをいいます。
例えば、上司による言動が典型的ですが、同僚や部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験をもっていて、その同僚や部下の協力がないと業務の円滑な遂行が困難である場合や、同僚や部下の集団による行為で抵抗や拒絶できないものが挙げられます。

③業務上必要かつ相当な範囲を超える言動

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」ものとは、社会通念に照らして、その言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを言います。例えば、業務上明らかに必要性のない言動や、業務の目的を大きく逸脱した言動、業務を遂行するための手段として不適当な言動、当該行為の回数、行為者の数など、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動が挙げられます。

④就業環境が害される

「就業環境が害される」とは、当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。
就業環境が害されるかどうかの判断は、平均的な労働者の感じ方(同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか)を基準とすることが適当であるとされています。

問題となる言動がパワハラにあたるかどうかは、これらの4つの要件に加えて、その言動により労働者が受ける身体的又は精神的な苦痛の程度等を総合的に考慮して判断することが必要とされます。