中小企業の経営者で個人保証(経営者保証)をされている方へ

・新たな融資を受けようと思うけれども、また保証をすることを考えると融資を受けるか悩んでしまう
・事業承継の候補者がいるけれども、保証人にはなりたくないと言っている
・会社を整理しようかと思うけれども、保証人としての責任を考えると躊躇してしまう

経営者の保証に依存しない新規融資や会社整理の際の保証債務の処理について、経営者保証ガイドラインをご検討ください

これまで、金融機関から受ける融資については、経営者が連帯保証人となる経営者保証がおこなわれてきました。
経営者の規律付けや会社の信用力を補完するという理由から行われてきましたが、その一方で、経営者による新たな事業展開や、経営が困難になった場合に経営者の早期の事業再生を妨げる原因となっているという指摘もされてきました。
このような事態に対応するため、経営者ガイドラインが定められています。


経営者ガイドラインの適用を受けるためには、次の条件を満たすことが必要です

中小企業が融資を受けたこと
保証人が個人であり、融資を受けた中小企業の経営者等であること
融資を受けた中小企業と保証人である経営者等が、弁済に誠実で、債権者の請求に応じて負債の状況を含む財産状況等を適切に開示していること
融資を受けた会社と経営者である保証人が、反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと

新規融資・事業承継の際の対応

経営者保証をしないで融資を受けるための主な3つのポイント

法人と経営者との明確な区分・分離:法人・経営者間の資金のやり取りを適切に行うための体制整備して運用を図ります

事業用資産の所有者を明確にしたり、法人から経営者への貸付等による資金流出の防止を図るなど、法人の資産・経理と経営者の資産・家計を適切に分類することが求められます。

財務基盤の強化:財務状況や業績の改善を図って、返済能力向上に取り組み、信用力を強化します

法人のみの資産・収益力だけで、借入金の返済が可能であることが期待されます。業績が堅調な場合のほかに、業績がやや不安定だけれども内部留保により借入金の返済が可能である場合があります。そのほか、内部留保が潤沢とはいえなくとも、借入金を順調に返済できるためのキャッシュフローが確保できる場合が考えられます。

経営の透明性:財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等によって経営の透明性を確保します

債権者の融資の判断に必要な情報の開示や説明が求められます。
例えば、賃借対照表や損益計算書以外にも、決算上の各勘定細目を提出したり、本決算の報告以外にも、試算表や資金繰り表の定期的に報告したりすることが挙げられます。


事業承継時における経営者保証

事業承継の後継者が経営者保証を引き継ぐことは、事業承継を阻害することにもなり兼ねません。そのため、債権者は、経営者保証をすることで事業承継が頓挫する可能性や、そのことによる地域経済の持続的な発展、債権者の経営基盤への影響といったことを考慮して、経営者保証が必要か否かを検討することになります。債権者としては、以下のような対応を検討します。

  1. 保証の必要性についての判断
    • 事業評価や事業承継計画、計画の内容、成長可能性を評価すること
    • 代替的な融資手法(会社が特約条項(コベナンツ)に抵触しない限り保証債務の効力が発生しない等)を活用すること
    • 外部専門家の支援を受けて改善に取り組んでいる会社については、検証結果や改善計画の内容、見通しを考慮すること
    • 経営者保証コーディネーターの確認を受けた会社については、その確認結果を十分に踏まえること
  2. ①を検討した結果、後継者にも保証してもらう必要があると判断した場合の対応
    • 資金使途に応じた保証や適切な保証金額の設定を検討すること
    • 解除条件付保証契約(財務状況が改善した場合には保証債務が効力を失う等)といった代替的な融資手法を活用すること
    • 事業承継特別保証制度(一定の要件を満たす中小企業について保証人を徴収しない制度)を活用すること
    • 政府系金融機関による無保証融資制度を利用すること

会社整理の際の保証債務の対応

会社を整理する際の経営者保証債務には、会社の債務と保証債務のいずれも整理する一体型と、保証債務のみを整理する単独型があります。経営者保証ガイドラインを利用する場合の保証人メリットとして、以下の内容が挙げられます。

 ・保証人として自己破産することを回避できる
 ・信用情報登録機関への登録を回避できる
 ・一定期間の生活費のための手元資金を残すことができる
 ・一定の場合には自宅に住み続けることができる

経営者ガイドラインを利用するための要件

経営者ガイドラインを利用するためには、上述の一般的な要件に加えて以下の要件を満たすことが必要です。

会社が法的整理(破産・民事再生手続等)または準則型私的整理手続き(事業再生ADR等)を利用していること
経済的合理性があること:主たる債務及び保証債務の破産手続による配当よりも多くの配当がなされる見込みがあること
保証人に免責不許可事由がなく、そのおそれもないこと

残すことができる資産

経営者ガイドラインを利用して保証人の手元に残すことができる資産は以下の内容となります。なお、資産として残せる財産は、主債務からの回収見込額の範囲内となります。

  1. 自由財産

    破産でも残せる財産です。99万円以下の現金のほかに差押禁止財産が含まれます。

  2. 一定期間の生活費

    一定期間の生活費の目安は次のとおりです。

    保証人の年齢金額の目安
    30歳未満99万円〜198万円
    30歳以上35歳未満99万円〜264万円
    35歳以上45歳未満99万円〜297万円
    45歳以上60歳未満99万円〜363万円
    60歳以上65歳未満99万円〜264万円
  3. 自宅

    自宅について、オーバーローンとなっているか否かを確認して、その結果に応じた対応が必要となります。

    被担保債務会社の債務の場合保証人の住宅ローンの場合
    オーバーローンの場合・担保権者との間で公正な価格での弁済についての合意をしたうえで、継続して居住する
    ・売却する場合には、売却代金を担保権者への弁済に充当
    ・約定通りの支払い又は支払いのリスケジュールをしたうえで、継続して居住する
    ・売却する場合は、売却代金を担保債権者の弁済に充当
    オーバーローンではない場合・華美でない自宅として、残存資産にできるかを対象債権者と協議のうえ、居住を継続(回収見込額範囲内の必要有)
    ・売却する場合には、担保権者への弁済充当後の余剰金が自由財産を超えるときは、インセンティブ資産にできるか対象債権者と協議(回収見込額範囲内の必要有)
    ・約定通りの支払いを継続して居住することができる。評価額を余剰金額とする自宅が華美でない自宅として残存資産とできるかを対象債権者と協議する必要(回収見込額範囲内の必要有)
    ・売却する場合には、担保権者への弁済充当後の余剰金が自由財産を超えるときは、インセンティブ資産にできるか対象債権者と協議(回収見込額範囲内の必要有)

個別の事情において異なる場合もありますので、詳しい内容につきましてはご相談ください。