会社は、企業秩序維持のために、企業秩序に違反した労働者に対して、懲戒処分を行うことが可能です。つまり、会社は、企業の秩序を維持するために必要な事項を就業規則に定めて労働者に指示命令し、労働者がこれに違反した場合には、企業秩序維持のために指示・命令、制裁として懲戒処分を行うことが可能です。
服務規律
一般的には、次のような内容が定められています(菅野「労働法第12版」690頁)。
①服務規律の中心となる、労働者の就業(労務提供)の仕方および職場の在り方について
・入退場に関する規律(入退場の場所の指定、入退場の手続き)
・遅刻、早退、欠勤、休暇の手続き
・離席、外出、面会の規制
・服装規律(制服、制帽等)
・職務専念規定(就業中の過度の私語、職場離脱、私的電話の禁止等)
・上司の指示・命令への服従義務
・職務上の金品授受の禁止
・安全、衛生の維持(喫煙場所の指定、火気の制限等)
・風紀維持(けんか、暴行、飲酒、賭博の禁止等)
・職場の整理整頓
②企業財産の管理・保全について
・会社財産の保全(消耗品の節約、物品の持出流用の禁止等)
・会社施設の利用の制限(終業後の職場滞留の制限、会合の許可制等)
・事業場内の政治活動、宗教活動の禁止
③従業員としての地位・身分について
・信用の保持(企業の名誉、信用の毀損、社員の対面の毀損の禁止等)
・兼職、兼業の制限
・公職立候補や公職就任の取扱い
・秘密保持義務
・身上異同の届出
懲戒処分の種類
次に、懲戒処分の種類としては、けん責、戒告、減給、降格、出勤停止、懲戒解雇が定められていることが一般的です。
懲戒処分が有効となるために必要なこと
では、どのような場合に、懲戒処分が有効なのでしょうか。
労働契約法第15条には、使用者の懲戒処分について次のように規定しています。
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
つまり、懲戒処分が有効になるには、
①懲戒事由として種類・程度が就業規則で定められていて、周知されていること
②労働者の問題となる行為が、就業規則で定めた懲戒事由に該当し、「客観的に合理的な理由」があること
③懲戒処分が、当該行為の性質及び態様その他の事情に照らして、社会通念上相当であると認められない場合でないこと
が必要となります。
②懲戒事由に該当し、客観的に合理的な理由があること
懲戒事由は、さまざまな事象に対応できるようにするため、ある程度包括的な表現が用いられることが通常です。そのため、裁判においては、労働者の問題となる行為が、当該懲戒事由に該当するか否かが中心的な争点となることがあります。
そこで、精神疾患の疑いがある労働者が長期欠勤をしている場合の懲戒処分(最高裁平成24年2月27日 日本ヒューレット・パッカード事件)についてご紹介します。
この事案は、嫌がらせを受けていると主張する労働者が、有給休暇をすべて取得した後に約40日間にわたって欠勤を続けたのに対し、会社が就業規則上の懲戒事由である「正当な理由なしに無断欠勤引き続き14日以上に及ぶときには、懲戒処分に処する」に該当するとして、諭旨退職の懲戒処分に処したという内容です。
この労働者の方は、採用されてから約7年間は、特段の問題なく勤務を続けてきたようですが、あるときから、誰かは分からないが職場の同僚を通じて嫌がらせを受けているとして、上司に対して有給休暇が続く限り休みますといった内容のメールを送信して出勤しなくなったというものです。ただし、この労働者が主張するような、何者かによる嫌がらせという事実の証拠はないとされています。
そのうえで、最高裁は、「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、使用者である上国人としては、その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上、精神科医による健康診断を実施するなどした上で(記録によれば、上告人の就業規則には、必要と認めるときに従業員に対し臨時に健康診断を行うことができる旨の定めがあることがうかがわれる。)、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を対応を採ることなく、被上告人の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。」
として、会社が定める懲戒事由には該当せず、懲戒処分は無効だと判断しました。
このように、懲戒処分事由に該当するか否かについては、就業規則で定められた文言のみではなく、労働者保護の観点からの解釈適用がなされる場合があります。そのため、実際の懲戒処分にあたっては、弁護士へご相談ください。