改正旅館業法の円滑な施行に向けた検討会
新型コロナウイルス感染症の流行等を踏まえて、旅館業の施設が感染防止対策等を行えるようにすることを目的として、2023年6月7日、改正旅館業法が成立し、同年12月から施行されます。
これに関係して、同年10月10日、「改正旅館業法の円滑な施行に向けた検討会によるとりまとめ」が公表されました。
このとりまとめには、宿泊拒否の理由となり得る宿泊客の行動についての具体例が挙げられており、カスハラ対策として参考になる部分もありますので、ご紹介します。
宿泊拒否事由の規定
旅館業法では、営業者は、原則として宿泊を拒んではならないと規定されています(旅館業法第5条1項)。
そして、今回、例外的に宿泊を拒否できる場合として、宿泊しようとする者が、営業者に対して、実施に荷重な負担がかかり、他の宿泊者に対する宿泊サービスの提供を著しく阻害するおそれがある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき、という内容が規定されました(改正旅館業法第5条3項)。
荷重な負担の判断要素
荷重な負担とは、営業者において、個別の事案ごとに、
・事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
・実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
・費用・負担の程度
・事務・事業規模
・財政・財務状況
といった要素を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要とされています。
特定要求行為の具体例
とりまとめでは、実施に荷重な負担がかかり、他の宿泊者に対する宿泊サービスの提供を著しく阻害するおそれがある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返す行為を「特定要求行為」と定義したうえで、特定要求行為に該当すると考えられるものとして、以下の具体例を挙げています。
・宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、宿泊料の不当な割引や不当な慰謝料、不当な部屋のアップグレード、不当なレイトチェックアウト、不当なアーリーチェックイン、契約にない送迎等、他の宿泊者に対するサービスと比較して過剰なサービスを行うよう繰り返し求める行為
・宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、自身の泊まる部屋の上下左右の部屋に宿泊客を入れないことを繰り返し求める行為
・宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、特定の者にのみ自身の対応をさせること又は特定の者を出勤させないことを繰り返し求める行為
・宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、土下座等の社会的相当性を欠く方法による謝罪を繰り返し求める行為
・泥酔し、他の宿泊者に迷惑を及ぼすおそれがある宿泊者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、長時間にわたる介抱を繰り返し求める行為
・宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、対面や電話、メール等により、長時間にわたって、又は叱責しながら、不当な要求を繰り返し行う行為
・要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が不相当な言動を交えての要求を繰り返し行う行為
なお、要求を実現するための手段・態様が不相当な言動の例(要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの)として、以下の具体例が挙げられています。
・身体的な攻撃(暴行、傷害)
・精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴行)
・土下座の要求
・継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動
・拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
・差別的な言動
・性的な言動
・従業者個人への攻撃、要求
また要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるものとして、以下の具体例が挙げられています。
・商品交換の要求
・金銭補償の要求
・謝罪の要求(土下座を除く。)
施行規則で定める内容案
一方、厚生労働省令に定める内容案として、とりまとめに記載されているものは以下のとおりです。
①宿泊料の減額その他のその内容の実現が容易でない事項の要求
②粗野又は乱暴な言動その他の従業員の心身に負担を与える影響(中略)を交えた要求であって、当該要求をした者の接遇に通常必要とされる以上の労力を要することとなるもの
事業者としての対策
以上が、改正旅館業法に関して記載された具体例となります。カスタマーハラスメントに対しては、実際の事例ごとに個別具体的な対応が必要となりますので、実際にそのような事情と感じられる事例が生じた場合には、弁護士へご相談ください。
また、カスタマーハラスメントに適切に対応するためには、事前の準備も大切ですので、日頃からそのような事案にどのように対応するのかを、検討しておくことをお勧めします。