裁量労働制の制度改正
労働基準法の裁量労働制について、令和5年3月30日付で省令(令和5年厚生労働省令39号)および告示(令和5年厚生労働省告示115号)が公布・告示されたことにより、令和6年4月1日から現行の裁量労働制に関する規定が改正され、改正後の規定が施行されることになります。
健康・福祉確保措置の追加
労働基準法では、裁量労働制の対象業務に従事する労働者について、使用者は、労働者時間の状況に応じた当該労働者の健康および福祉を確保するための措置を講ずる必要があります(労働基準法第38条の4第1項第5号)。
そして、今回の告示の正により、健康・福祉確保措置として定めることが適切な内容が、次の1、2のように整理され、それぞれ1つずつ以上実施することが望ましいとされました(指針第3の4(2)ハ)。
1:長時間労働の抑制や休暇確保を図るための事業者の対象労働者全員を対象とする措置
①就業から始業までの一定時間以上の休息時間の確保(勤務間インターバル)
②深夜業(22時〜5時)の回数を1箇月で一定回数以内とする
③労働時間が一定時間を超えた場合の制度適用解除
④連続した年次有給休暇の取得
2:勤務状況や健康状況の改善を図るための個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置
⑤一定の労働時間を超える対象労働者への医師による面接指導
⑥代償休日・特別な休暇付与
⑦健康診断の実施
⑧心とからだの相談窓口の設置
⑨必要に応じた配置転換
⑩産業医等による助言・指導や保健指導
この①〜➉までのうち、①・②・③・⑤が今回追加されました(指針第第3の4(1)ロ(イ)(ロ)(ハ)(ホ))。
そして、このうち特に、把握した対象労働者の勤務状況およびその健康状況を踏まえ、③労働時間が一定時間を超えた場合の制度適用解除の措置を実施することが、労働者の健康確保をはかるうえで望ましいとされました(指針第3の4(2)ニ)。
令和5年改正労働基準法施行規則等にかかる裁量労働制に関するQA
令和5年改正労働基準法施行規則等にかかる裁量労働制に関するQAによると、健康・福祉措置の追加に関して、以下の点に留意する必要があります。
①勤務間インターバルや②深夜業(22時〜5時)の回数を1箇月で一定回数以内とすることについて、設定する回数や時間については、人員体制や業務の負荷等の個別の事情に鑑み、労使で協議の上、設定する必要があることに留意する必要があるが、例えば、高度プロフェッショナル制度において、勤務間インターバルの時間については11時間以上、深夜業の回数については1箇月当たり4回以内と示されていることを参考にした上で、設定することが考えられる(令和5年改正労働基準法施行規則等にかかる裁量労働制に関するQA3−7)。
さらに、⑤一定の労働時間を超える対象労働者への医師による面接指導について、この一定時間とは、週40時間を超える労働時間が月80時間(労働安全衛生法第66条の8の委任に基づく労働安全衛生法規則第52条の2に規定する時間数)を超えることは認めらない(QA3−6)。
同意取得の適正化
この他に、今回の改正によって、裁量労働制の制度概要等について、使用者が労働者に対して明示した上で説明して同意を得ることを決議で定めることが適当であるとされました(指針第3の6(2)ハ)。
また、十分な説明がなされなかったこと等により、同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものとは認められない場合には、労働時間のみなしの効果は生じないこととなる場合があることに留意する必要があります(指針第3の6(2)イ)。
そして、労働者の同意が自由な意思に基づいてされたものとは認められない場合か否かは、個別具体的に判断する必要があるが、裁量労働制導入後の処遇等について説明することが求められており、例えば、労働者に対して、同意した場合に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容並びに同意しなかった場合の配置及び処遇について、同意に先立ち、誤った説明を行ったことなどにより、労働者が専門型又は企画型の適用の是非について検討や判断が適切にできないまま同意に至った場合などは、自由な意思に基づいてされてあものとは認められないものと考えられる、とされています(QA1−2)。
以上の他にも、今回の改正によって、専門型の対象業務に、M&Aアドバイザリー業務が新たに追加される等の変更が生じています。
そのため、現在、すでに裁量労働制を採用している又はこれから採用を検討しようとお考えの方へは、施行後の内容に沿ったものになるように準備が必要となります。