この令和5年度のPDF資料は、職場におけるハラスメントの実態について、企業と労働者の双方を対象とした調査結果をまとめたものです。ハラスメントの種類別の発生状況や相談件数、企業が実施している予防・解決のための対策、そしてハラスメントが労働者に与える影響などが詳細に分析されています。特に、顧客からの迷惑行為や就職活動中のハラスメントといった新たな課題にも焦点が当てられています。この調査は、より効果的なハラスメント対策を講じるための基礎資料となることを目的としています。

令和5年度の調査報告書によると、ハラスメントの発生状況について、いくつかの情報が得られます。

まず、調査の背景として、近年、顧客や取引先からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)や就職活動中又はインターンシップ中の学生に対するセクハラ(就活等セクハラ)などが社会問題化している状況が見られます。この状況を踏まえ、令和2年度の調査から3年が経過し、職場におけるハラスメント対策に取り組む企業やハラスメントを受けている労働者の状況も変化していると考えられるため、本調査が実施されました.

企業におけるハラスメントに関する相談状況を見ると、過去3年間にハラスメントに関する相談があった企業が予防・解決のために実施している取組がハラスメントの種類別に示されています。相談があった企業のうち、取組を実施している企業の数を見ると、パワハラに関する相談があった企業が最も多く(n=4,044)、次いでセクハラ(n=2,562)、顧客等からの著しい迷惑行為(n=1,279)、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント(n=628)となっています。

また、過去3年間のパワハラに関する相談のうち、最終的にパワハラに該当すると判断した事例の件数の傾向を見ると、従業員規模が大きくなるほど、「パワハラに該当すると判断した事例の件数が増加している」と回答した企業の割合が高くなる傾向があります。

顧客等からの著しい迷惑行為については、過去3年間に相談として取り扱った件数の推移として、「増加している」と回答した企業の割合は全体で6.5%、「減少している」は3.2%となっています。また、過去3年間に受けた相談のうち、顧客等からの著しい迷惑行為に該当すると判断した事例の件数の傾向としては、「増加している」と回答した企業の割合は全体で19.6%となっています。

これらの情報から、パワハラに関する相談が依然として多く、企業規模によってその認識に差異があること、また、カスタマーハラスメントや就活等セクハラが社会問題として認識されており、企業における対策の必要性が高まっている状況が示唆されます。

令和5年度の調査報告書によると、企業はハラスメントの予防・解決のために、以下のような多岐にわたる取り組みを実施しています。

共通の取り組みとして、多くの企業がハラスメントの種類を問わず、以下の対策を行っています:

  • 事業主によるハラスメント対策への取組姿勢を明確に示す発信(トップメッセージの発信等).
  • 経営幹部がハラスメントに対する関心と理解を深め、労働者等に対する言動に必要な注意を払うための周知・啓発(役員向け研修の実施等).
  • ハラスメントの内容、職場におけるハラスメントをなくす旨の方針の明確化と周知・啓発(就業規則等への規定、社内広報誌等への記載・配布、従業員向け研修等).
  • 行為者に厳正に対処する旨の方針・対処の内容の就業規則等への規定と周知・啓発.
  • 相談窓口の設置と周知.
  • 相談窓口担当者が相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにするための対応(マニュアルの作成、研修等).
  • 相談者・行為者等のプライバシー保護のための措置の実施と周知(マニュアルの作成、相談窓口担当者への研修、社内広報資料等への記載・配布等).
  • 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益取扱いをされない旨の定めと周知・啓発(就業規則等への文書への規定・周知、社内広報資料への記載・配布等).
  • 事実関係の迅速かつ正確な確認(相談者及び行為者、又は第三者からの事実関係の確認).
  • 再発防止に向けた措置(ハラスメントに関する方針の再度の周知・啓発等).
  • 被害者に対する適切な配慮の措置(被害者と行為者の間の関係改善に向けた援助、配置転換、被害者の不利益の回復、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等).
  • 行為者に対する適切な措置(被害者と行為者の間の関係改善に向けた援助、配置転換、就業規則等に基づく懲戒、行為者に対する出入り禁止等).

ハラスメントの種類別にみると、以下の特徴的な取り組みも見られます。

  • 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに対しては、業務体制の整備など、妊娠等した労働者等の実情に応じた必要な措置の実施も行われています.
  • **顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)**に対しては、対応に関するマニュアル作成、研修の実施顧客等への周知・啓発行為者に対する出入り禁止等自社従業員が取引先等からハラスメント被害を受けた場合の取引先等への協力依頼警備会社、警察等の関係各所との連携 などが行われています。厚生労働省や関係省庁が連携し、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」などが作成・周知されています.
  • 就活生等に対するセクハラに対しては、関係省庁や企業との連携により「就活ハラスメント防止対策企業事例集」が作成・周知されており, 具体的な取組として、就活生等に対するセクハラを行ってはならない旨の方針の明確化・周知就活生等からの相談への適切な対応社員に対する研修の実施「公正な採用選考」に基づいた面接実施の周知リクルーターの行動指針やマニュアルの策定・周知応募者の個人情報の限定利用の徹底 などが挙げられます。

さらに、企業はハラスメントの予防として、各種ハラスメントの一元的な相談窓口の設置コミュニケーションの活性化や円滑化等のための取組職場環境の改善のための取組労働者や労働組合等の参画 なども行っています。

また、自社の従業員や役員が他社の労働者に対して行ったハラスメントについて、他社から協力が求められた場合、**66.2%の企業が「応じている」**と回答しています.

ただし、顧客等からの著しい迷惑行為に関する取組を進める上では、「関係者(顧客等)の意識が低い/理解不足」、「発生状況を把握することが困難」、「迷惑行為に対応する際の従業員等のプライバシーの確保が難しい」、「迷惑行為に対応する従業員等の精神的なケアが難しい」などの課題も認識されています.