フリーランス・事業者間取引適正化法Q&A

フリーランス新法は、令和5年4月28日に可決成立し、同年5月12日に公布されました。そのうえで、令和6年11月1日に施行されます。
これにより、個人で働くフリーランスに業務委託を行う発注事業者は、業務委託をした際の取引条件の明示、給付を受領した日から原則60日以内での報酬支払い、ハラスメント対策のための体制整備等が義務付けられることになります。

そして、厚生労働省から、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)Q&Aが発表されていますので、ご紹介いたします(令和6年9月19日時点)。
このQ&Aは、この法律の条項ごとに、想定される問題点をQ&A形式で説明するものです。

3条通知において明示を要しない場合の具体例

この法律では、業務委託時に、業務委託事業者が特定受託事業者に対して、一定の内容を明示しなければなりませんが、「その内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しない」とされています(法第3条1項)。

そして、「その内容が定められないことにつき正当な理由がある」とは、取引の性質上、業務委託をした時点では明示事項の内容を決定することができないと客観的に認められる理由がある場合であり、例えば、

・ソフトウェアの作成委託において、業務委託時では最終ユーザーが求める仕様が確定しておらず、特定受託事業者に対する正確な委託内容を決定することができないため、「特定受託事業者の給付の内容」を定められない場合
・放送番組の作成委託において、タイトル、放送時間、コンセプトについては決まっているが、業務委託時には、放送番組の具体的な内容については決定できず、「報酬の額」が定められない場合

があげられます(Q&A39)。

もっとも、当該事項の内容が定められた後は、業務委託事業者は、直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければなりません(法第3条1項)。

3条通知を「電磁的方法による提供」により明示する方法

3条通知は、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。)により明示しなければなりません。

このうち、「電磁的方法による提供」により明示する方法として、

①受信者を特定して電気通信により送信する方法:電子メール、チャットツール、SMSを用いて送信する方法、SNS、Webサイト、アプリケーション等のメッセージ機能を用いて送信する方法、クラウドサービス等により特定受託事業者が3条通知の内容を確認し得る状態となること

②明示事項を記録したファイルを交付する方法:明示事項を記載した電子ファイルのデータを保存したUSBメモリやCDーR等を交付する方法等

があげられます(Q&A40)。

特定受託事業者による書面交付請求(法第3条2項)

この法律では、業務委託事業者は、電磁的方法により3条通知の内容を明示した場合において、特定受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、これを交付しなければなりません(法第3条2項)。

ここで、例えば、自社のアプリケーションを用いて、特定受託事業者に業務委託を行うとともに3条通知による明示を行った場合、その後、業務委託事業者は、特定受託事業者が自身の責めに帰すべき事由がないのに明示された事項を閲覧できなくなった場合を除き、当該特定受託事業者からの書面交付請求に応じる必要はありません。

しかし、特定受託事業者が業務委託に関して契約違反行為があったことを理由として、当該特定受託事業者のアカウントをが停止され、その結果、明示された事項が閲覧できなくなったような場合には、当該特定受託事業者が契約違反行為を行ったこと自体は、明示事項を閲覧できなくなったことの直接的な理由とはいえません。そのため、アカウントが停止されたことにより明示された事項が閲覧できなくなったことは、実際に特定受託事業者に契約違反行為があったか否かにかかわらず、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに明示された事項を閲覧できなくなった場合に該当し、業務委託事業者は、特定受託事業者からの書面交付請求を受けた場合、これに応じる必要があります(Q&A42)。

報酬の支払い期日(法第4条1項)

この法律の4条では、発注事業者がフリーランスに対し業務委託をした場合における報酬の支払期日として、「当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して60日以内の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定めなければならない」と規定しています(法第4条1項)。

このように、支払い期日を定める際の起算日は、給付を受領した日(受領した日を算入した日)となります。

そのうえで、委託の内容別の起算日として

① 物品の製造・加工委託
物品の内容について検査をするかを問わず、特定業務委託事業者が物品を受け取り、自己の占有に置いた日

②情報成果物の作成委託
情報成果物を記録した電磁的記録媒体(USBメモリやCD-R等)がある場合には、情報成果物を記録した電磁的記録媒体を受け取り、自己の占有下に置いた日
また、電子メール等で情報成果物を受領した場合には、特定業務委託事業者の用いる電子計算機内(パソコン等)に記録された時点

③役務の提供委託
特定業務委託事業者が特定受託事業者から個々の役務の提供を受けた日。役務の提供に日数を要する場合には、一連の役務の提供が終了した日

となります(Q&A44)。

なお、情報成果物の作成委託及び役務の提供委託では、起算日に関する例外が、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月31日公正取引委員会・厚生労働省)において、以下の通り定められています。

情報成果物の作成委託について
情報成果物の作成委託では、特定業務委託事業者が作成の過程で、特定受託事業者の作成内容の確認や今後の作業の指示等を行うために情報成果物を一時的に特定業務委託事業者の支配下に置く場合があります。
この時点では特定情報成果物が給付としての水準に達し得るかどうか明らかでない場合において、あらかじめ特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で、特定業務委託事業者が自己の支配下に置いた当該情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で、給付を受領したこととすることを合意している場合には、特定業務委託事業者が当該情報成果物を自己の支配下に置いたとしても直ちに受領したものとは取り扱わず、自己の支配下に置いた日を支払期日の起算点とはしません。
ただし、3条通知に明記された納期において、当該情報成果物が特定業務委託事業者の支配下にあれば、内容の確認が終わっているかどうかを問わず、当該納期に受領したものとして、支払期日の起算日となります。
なお、このような取扱いとするのは、情報成果物の場合には、外形的には全く内容が分からないことから特に認めているものであり、情報成果物以外の場合には認められないことに留意が必要です。


役務の提供を委託した場合について
役務の提供に日数を要する場合には、一連の役務の提供が終了した日が役務の提供を受けた日となります。
ただし、個々の役務が連続して提供される役務であって、次の①から③までの全ての要件を満たす場合には、月単位で設定された締切対象期間の末日(個々の役務が連続して提供される期間が1か月未満の役務の提供委託の場合には、当該期間の末日)当該役務が提供されたものとして取り扱い、当該日から起算して60日以内(2か月)以内に報酬を支払うことが認められます。

① 報酬の支払いは、特定受託事業者と協議の上、月単位で設定される締切対象期間の末日までに提供した役務に対して行われることがあらかじめ合意され、その旨が3条通知に明確に記載されていること。
② 3条通知に、当該期間の報酬の額又は報酬の具体的な金額を定めるこっとなる算定方式(役務の種類・量当たりの単価があらかじめ定められている場合に限る。)が明確に記載されていること
③ 特定受託事業者が連続して提供する役務が同種のものであること。