フリーランス・事業者間取引適正化法Q&A
フリーランス新法は、令和5年4月28日に可決成立し、同年5月12日に公布されました。そのうえで、令和6年11月1日に施行されます。
これにより、個人で働くフリーランスに業務委託を行う発注事業者は、業務委託をした際の取引条件の明示、給付を受領した日から原則60日以内での報酬支払い、ハラスメント対策のための体制整備等が義務付けられることになります。
そして、厚生労働省から、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)Q&Aが発表されていますので、ご紹介いたします(令和6年9月19日時点)。
このQ&Aは、この法律の条項ごとに、想定される問題点をQ&A形式で説明するものです。
特定業務委託事業者の遵守事項(法第5条)
特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対して業務委託をした場合は、以下の行為をしてはならないと規定されています(法第5条1項各号)。
① 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を拒むこと
② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること
③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること
④ 特定受託事業者の給付と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤ 特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を矯正して購入させ、又は役務を強制して利用させること
また、特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、以下の行為をすることによって、特定受託事業者の利益を不当に害してはならないと規定されています(同条2項各号)
① 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後に給付をやり直させること
ここで、役務の提供委託においては、受領拒否の禁止規定が適用されませんが、特定受託事業者の責に帰すべき事由がないのに一方的に業務委託を取り消し、特定受託事業者が要した費用を特定業務委託事業者が負担しないことにより特定受託事業者の利益を不当に害したといえる場合には、不当な給付内容の変更として問題となります(Q&A73)。
また、特定業務委託事業者は、特定受託事業者と合意することなく、特定受託事業者の金融機関口座に報酬を振り込む際の手数料を特定受託事業者に負担させ、振込手数料を報酬の額から差し引くことは、報酬の減額に該当します。
一方、業務委託前に、振込手数料を特定受託事業者が負担する旨を書面又は電磁的方法で合意している場合には、この振込手数料を報酬の額から差し引くことは、報酬の減額に該当しません。
ただし、このように合意していたとしても、特定業務委託事業者が報酬を振り込む際に金融機関に支払う実費を超えた振込手数料の額を報酬の額から差し引くことは、報酬の減額に該当します(Q&A77)。
募集情報の的確表示(法第12条)
特定業務委託事業者は、新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の提出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法により、その行う業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報を提供するときは、当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならないと規定されています(法第12条1項)。
また、特定業務委託事業者は、広告等により前項の情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければなりません(同条2項)。
これは、広告等に掲載されたフリーランスの募集情報と実際の取引条件が異なることにより、
・その募集情報を見て募集に応じたフリーランスと発注事業者との間で取引条件を巡るトラブルが発生したり、
・フリーランスがより希望に沿った別の業務を受注する機会を失ってしまったりするのを防止することを目的として設けられたものです(Q&A82)。
本条の対象となる募集条項の事項は、業務の内容、業務に従事する場所、期間又は時間に関する事項、報酬に関する事項、契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。)に関する事項、特定受託事業者の募集を行う者に関する事項が挙げられます。
なお、本条は、これらの事項を提供する場合に虚偽の表示の禁止等を求めるものであり、これらの事項を明示することを求めるものではありません。そのため、対象となる募集情報の事項を明示しないことによって本法違反となるものではありませんが、取引上のトラブル防止の観点から、これらの事項を可能な限り含めて提供することが望まれます(Q&A89)。
対象となる募集情報の提供方法は、①新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、②文書の掲出又は頒布、③書面の交付、④ファクシミリ、⑤電子メール等、⑥放送、有線放送等が該当します。
⑤の電子メール等は、電子メールのほか、SNS等のメッセージ機能等を利用した電気通信が該当します。
⑥の放送、有線放送等は、テレビやラジオ、インターネット上のオンデマンド放送や自社のホームページ、クラウドソーシングサービス等が提供されるデジタルプラットフォーム等が該当します(Q&A83)。
なお、フリーランス等の請負契約の受注者の募集であるにも関わらず、それを明示せず、雇用契約を前提とした労働者の募集であるかのような誤解を生じさせる表示をした場合は、労働者の募集等に関する情報の的確な表示を義務付けている職業安定法(昭和22年法律第141号)第5条の4違反となる可能性があります。
一方、雇用契約を前提とした労働者の募集であることを明示せず、特定受託事業者の募集であるかのうような誤解を生じさせる表示をした場合は、特定受託事業者の募集に関する的確な表示を義務付けている本法第12条違反となる可能性があります(Q&A88)。
育児・介護等と業務の両立に対する配慮(法第13条)
特定業務委託事業者は、その行う業務委託の相手方である特定受託事業者からの申出に応じて、当該特定受託事業者が妊娠、出産若しくは育児又は介護と両立しつつ当該継続的業務委託に係る業務に従事することができるよう、その者の育児介護等の状況に応じた必要な配慮をしなければならないと規定されています(法第13条)。
ここで、継続的業務委託とは、6か月以上の期間行う業務委託又は当該業務委託に係る契約の更新により6か月以上の期間継続して行うこととなる業務委託(①契約の当事者が同一であり、その給付又は役務の提供の内容が少なくとも一定程度の同一性を有し、かつ、②前の業務委託に係る契約又は基本契約が終了した日の翌日から、次の業務委託に係る契約又は基本契約を締結した日の前日までの期間の日数が1か月未満であるものを指します。
本条の規定に基づき育児介護等に対する配慮の申出ができるものは、特定業務委託事業者と業務委託に係る契約を締結している特定受託事業者であって育児介護等と両立しつつ業務に従事するものです。現に育児介護等を行うものでなくとも、育児介護等を行う具体的な予定のあるものも含まれます(Q&A91)。
継続的業務委託を行う特定受託事業者から育児介護等の配慮の申出があった場合、
① 配慮の申出の内容等の把握
② 配慮の内容又は取り得る選択肢の検討
③ 配慮の内容の伝達及び実施/配慮の不実施の場合の伝達・理由の説明
が必要となります(Q&A93)。
なお、本条の趣旨は、特定受託事業者が希望する育児介護等の配慮を必ず実現しなければならないというものではなく、上記①〜③を行うことが求められるものです。
そのため、配慮の内容や選択肢について十分に検討した結果、やむを得ず必要な配慮を行うことができない場合には、配慮不実施の旨を伝達し、その理由について説明すれば、本条違反となるものではありません(Q&A94)。