令和6年10月11日、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が成立し、令和7年4月1日に施行されます。
また、併せて令和6年12月25日には、カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)が発表されました。
今回は、この条例の概要について、ご紹介します。

カスタマー・ハラスメントの禁止

都条例では、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行なってはならない。」(第4条)とし、東京都民や都内事業者に限定せず、カスタマーハラスメントの行為主体となり得る全ての人を対象とし、カスタマー・ハラスメントを禁止しています。
そして、「あらゆる場所において」とされており、店舗や事業所の窓口等における行為だけでなく、電話やインタネット等における行為も禁止の対象に含まれます。

そのうえで、顧客等・就業者・事業者の各責務を規定し(第6条〜9条)、事業者による措置等(第14条)を定めています。
まず、それぞれの用語の定義は、以下の通りです。

事業者:都の区域内(以下「都内」という。)で事業(非営利目的の活動を含む。)を行う法人その他の団体(国の機関を含む。)又は事業を行う場合における個人をいう(第2条1号)。

就業者:都内で業務に従事する者(事業者の事業に関連し、都の区域外でその業務に従事する者を含む。)をいう(同条2号)。

顧客等:顧客(就業者から商品又はサービスの提供を受ける者をいう。)又は就業者の業務に密接に関係するものをいう(同条3号)。

著しい迷惑行為:暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為をいう(同条4号)。

カスタマー・ハラスメント:顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの(同条5号)。

顧客等・就業者・事業者の責務

まず、顧客等は、「カスタマー・ハラスメントは・・・社会全体でその防止が図らなければなら」(第3条1項)ず、その「防止に当たっては、顧客等と就業者とが対等の立場において相互に尊重することを旨としなければならない」(同条2項)とする都条例の基本理念にのっとり、カスタマーハラスメントに係る問題に対する関心と理解を深めるとともに、就業者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない(第7条)とされます。

次に、就業者は、同じく基本理念にのっとり、顧客等の権利を尊重し、カスタマー・ハラスメントにかかる問題に対する関心と理解を深めるとともに、カスタマー・ハラスメントの防止に資する行動をとるように努めなければならない(第8条)とされます。

次に、事業者は、

・基本理念にのっとり、カスタマー・ハラスメントの防止に主体的かつ積極的に取り組むとともに、都が実施するカスタマー・ハラスメント防止施策に協力するよう努めること(第9条1項)
・その事業に関して就業者がカスタマー・ハラスメントを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めること(同条2項)
・事業者は、その事業に関して就業者が顧客等としてカスタマー・ハラスメントを行わないように、必要な措置を講ずるよう努めること(同条3項)
・顧客等からのカスタマー・ハラスメントを防止するための措置として、指針に基づき、必要な体制の整備、カスタマー・ハラスメントを受けた就業者への配慮、カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成その他の措置を講ずるよう努めること(第14条1項)

とされています。

このように、いずれの主体も基本理念にのっとった対応が求められます。

事業者に求められる対応

事業者は、都条例第14条で規定されているように、カスタマー・ハラスメント防止のために必要な措置を講ずることが重要となります。
そのため、

・カスタマー・ハラスメント対策の基本方針・基本姿勢の明確化と周知
・カスタマー・ハラスメントを行なってはならない旨の方針の明確化と周知
・相談窓口の設置
・適切な相談対応の実施
・相談者のプライバシー保護に必要な措置を講じて就業者に周知
・相談を理由とした不利益な取扱いを行なってはならない旨を定めて周知
・現場での初期対応の方法や手順の作成
・内部手続(報告・相談、指示・助言)の方法や手順の作成
・事実関係の正確な確認と事案への対応
・就業者の安全の確保
・就業者の精神面及び身体面への配慮
・就業者への教育・研修等
・カスタマー・ハラスメントの再発防止に向けた取組

が求められます。

カスタマー・ハラスメントの難しさ

都条例は、カスタマー・ハラスメントが、働く人を傷つけるのみならず、商品又はサービスの提供を受ける環境や事業の継続に悪影響を及ぼすものとして、個々の事業者にとどまらず、社会全体で対応しなければならない問題であるとして、禁止を明示することで行為の抑止効果を見込むとともに、その禁止を通じて、就業者の安全及び健康の確保だけでなく、顧客等の豊かな消費生活、事業者の安定した事業活動を推進し、もって公正かつ持続可能な社会の実現に寄与することを目的としています。

これまで、セクシャル・ハラスメント、マタニティ・ハラスメント、パワー・ハラスメントと、各ハラスメントへの立法を含めた対応がなされてきました。

今後、カスタマー・ハラスメントへの対応が必要となることが想定されますが、カスタマー・ハラスメントは、行為者が顧客であるがゆえに対応が難しいと感じられる事業者の方も多いと思いますので、お悩みの際はご相談ください。