令和2年改正前の公益通報者保護法では、事業者は内部通報体制の整備を義務付けることまでは求められていませんでした。しかし、実効性のある内部通報の整備・運用のため、改正法では以下の内容が定められました(法第11条)。ただし、常時使用する労働者が300人以下の事業者については、このような内部通報の整備義務は努力義務とされています(同条第3項)。
①公益通報対応業務従事者を定めること
事業者は、公益通報を受け、ならびに当該公益通報に係る通報対象事実の調査し、是正に必要な措置をとる業務(公益通報者対応業務)に従事する者(公益通報対応業務従事者)を定める必要があります。
- 公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であったものは、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはなりません。
- 公益通報者を特定させる事項とは、排他的に特定の人物が公益通報者であることを判断できる事項・情報をいいます。典型的には、公益通報者の氏名や社員番号が該当しますが、性別等の一般的な属性であっても、他の事項と照合させることにより、排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できる場合には該当するとされています。
②公益通報に対応するための体制の整備その他の必要な措置の義務
公益通報者の保護を図るとともに、公益公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に係る法令の規定の遵守を図るため、公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとる必要があります。
このことに関して、令和3年8月20日内閣府告示第118号において「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき指針に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」として、以下の内容が定められています。
事業者が、部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備としてとらなければならない措置
- 内部公益通報受付窓口の設置等
- 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
内部公益通報対応業務のうち、組織の長その他幹部に関する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとる必要があります。 - 公益通報対応業務の実施に関する措置
正当な理由がある場合を除いて、内部公益通報を受付け、必要な調査を実施する必要があります。そして、その調査の結果、通報対象事実に係る法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに絶世する必要があります。また、是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置をとる必要があります。 - 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとる必要があります。
事業者が、公益通報者を保護する体制の整備としてとらなければならない措置
- 不利益な取扱いの防止に関する措置として、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる必要があります。また、不利益な取扱いが行われた場合には、当該行為を行なった労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとることとされています。
- 事業者の労働者及び役員等が、範囲外共有(公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為)が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる必要があります。また、やむを得ない場合を除いて、通報者の探索(公益通報者を特定しようとする行為)を防ぐための措置をとるとともに、範囲外共有や通報者の探索が行われた場合には、当該行為を行なった労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとることとされています。
事業者が、内部公益通報対応体制を実効的に機能させるためにとらなければならない措置
- 法及び内部公益通報対応体制について、労働者等・役員・退職者に対して教育・周知を行い、公益通報対応業務従事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分な教育を行う必要があります。また、労働者党・役員・退職者から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応するための措置をとる必要があります。
- 内部公益通報を行った者に対して、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲で、以下の内容を速やかに通知する措置が必要となります。
・書面により内部公益通報を受けた場合において、当該内部公益通報に係る通報対象事実の中止その他是正に必要な措置をとったときはその旨
・当該内部公益通報に係る通報対象事実がないときはその旨 - 内部公益通報への対応に関する記録を作成し、適切な期間保管するとともに、内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて内部公益通報対応体制の改善を行う必要があります。また、内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者等及び役員に開示する必要があります。
- この指針において求められる事項について、内部規定において定め、また、当該規定の定めに従って運用することが必要です。