景品表示法上の問題点
一般消費者に商品・サービス(以下「商品等」という。 )を提供する事業者は、広告等において、商品等の内容の優良性又は取引条件の有利性を訴求するために「売上No.1」、「安さ第1位」等と強調する表示を行うことがあります。
このような No.1 表示が、合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、実際のもの又は競争事業者のものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認され、いわゆる景品表示法における不当表示として問題となります。
そのため、消費者庁は、 No.1 表示に関する実態調査を実施し、令和6年9月26日、「No.1 表示に関する実態調査報告書」を公表しました。この報告書では、No.1 表示を中心に、景品表示法に対する理解促進、一般消費者による自主的かつ合理的な商品等の選択を保護する観点から、景品表示法について一定の考え方が示されています。
消費者に対するヒアリング調査
No.1 表示では、「顧客満足度」、「品質満足度」、「コスパ満足度」等のように、商品等に満足したことを示すフレーズが最も多く(71件)、高評価%表示では、「医師の○%が推奨」、「おすすめした○○」等のように、専門家等が商品等の購入・利用を利用を勧めていることを示すフレーズが最も多い(32件)という結果となりました。
そして、No.1 表示のサンプルを用いて、消費者1,000人にウェブアンケートを実施した結果、新しい商品等を購入する際に、No.1 表示が購入の意思決定に「かなり影響する」又は「やや影響」すると回答した人は、約5割となりました。また、4割を超える消費者が「同種の他社製品と比べて優れていると思う」と回答し、同じく4割を超える消費者が「実際の利用者に調査をしていると思う」と回答しました。
このように、消費者は、実際の利用者による評価が「No.1 」である商品等だと認識するがゆえに、同種の他社商品と比べて優れていると認識することがうかがわれる結果となりました。
広告主に対するヒアリング調査
一方で、事業者に対して、No.1 表示等を行なっている目的、経緯をヒアリング調査したところ、
目的については、
・「競合社他社がNo.1 表示を行なっているため」という回答が多く、
・「他社の商品等と比べて自社の商品等が見劣りするのを避けるため」という回答も複数見られ、
経緯については、
・No.1 表示等を行うことを検討したのは、調査会社・コンサルティング会社等から勧誘・提案を受けた
・費用の安さ(1フレーズ10万円〜数十万円)を魅力に感じた、
という回答が多く、
・景品表示法上の適法性を強調(例えば、、「不当表示のリスクが無いよう、No.1 の裏付けとなる合理的な根拠を取得し納品します。」と強調した説明資料を配布している調査会社や、「顧問弁護士がリーガルチェックをしているので安心してほしい。」と説明する調査会社)して不適切な調査の勧誘を行なっている調査会社も見られました。
このようなヒアリングの結果、広告主の多くは、「調査会社がインターネット上で消費者に足しいてアンケートを実施していること」は把握していたものの、表示の根拠としている調査の基本的な内容(アンケートの質問項目や、比較対象としている競合他社の商品等)を把握していなかったという結果となりました。
そして、調査内容を確認しなかった理由として、「調査会社を信頼していた」、「他社も同じ調査会社を起用していたので問題ないと思っていた」等の回答が多く得られました。
このように表示の根拠を十分に確認していない場合、不当表示等を未然に防止するために管理上の措置(景品表示法第22条1項)が十分にとられていないことになります。
No.1 表示等についての景品表示法上の考え方
No.1 表示等が、合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、実際のもの又は競争事業者のものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認され、不当表示として景品表示法上問題となります。
そして、合理的な根拠と認められるには、以下の4点を満たすことが必要となります。
① 比較対象となる商品・サービスが適切に選定されている
(問題となる例)
・「○○サービス 満足度No.1 」等と表示しているが、○○に属するサービスのうち市場における主要なものの一部または全部が比較対象に含まれていない 等
② 調査対象者が適切に選定されている
(問題となる例)
・「顧客満足度No.1 」等と、実際に商品・サービスを利用したことがある者を対象に調査を行なっているように示す表示をしているば、実際には単なるイメージ調査のみを行なっている
・「医師の○%が推奨」等と、医師が専門的な知見に基づく判断として「推奨」しているかのように示す表示をしているが、実際には、医師の専門的分野(診療科など)が、商品・サービスを評価するに当たって必要な専門的知見と対応していない 等
③ 調査が公平な方法で実施されている
(問題となる例)
・「おすすめした」商品を選択させる場合に、自社商品を選択肢の最上位に固定して誘導する
No.1 (○%以上)になったタイミングで調査を終了している 等
④ 表示内容と調査結果が適切に対応している
不当なNo.1 表示等がなされる要因
不当なNo.1 表示等が行われる要因や背景事情として、以下の共通点が挙げられます。
① 動機の存在
広告主(における担当者)は、広告効果を期待して又は「競合他社に見劣りしないよう何らかのNo.1を訴求しておきたい」 等の理由から、No.1表示等を行いたいという動機を有している。
② 機会の存在
複数の調査会社が、 不適切な調査を廉価で行っている実態があり、 ①の動機を有する広告主(における担当者)は、容易に、主観的評価の調査を委託することができる環境にある。
③ 安易な正当化
広告主(における担当者)は、「調査のことを聞いても分からない」、「他社も同じ調査会社を利用しているから大丈夫」、「調査会社が適法と言っている」 等の理由から、 自ら調査内容を十分に確認することもなく、安易に、法的に問題がないものと結論付けてしまっている。
このうち問題が大きいのは、広告主が、安易な正当化により表示の根拠となる調査の内容に無関心になっている点にあり(③)、このような姿勢が、不適切な調査を行なっている調査会社との取引機会を増大させているといえる(②)と指摘されています。
広告主における取組
不当表示等への対策として、事業者には必要な体制を整備することが義務付けられています(景品表示法第22条1項)。
そして、消費者庁は、事業者が当該義務を履行する際の参考となるように、「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成26年内閣府告示第276号)を定めています。
この管理措置指針においては、「表示等の管理上の措置として、事業者は、その規模・・や業態、取り扱う商品又は役務の内容、取引の態様等に応じ、必要かつ適切な範囲で、次に占める事項に沿うような具体的な措置を講ずる必要がある。」とされており、以下の7項目の実施が求められています。
① 役職員等に対する景品表示法の考え方の周知・啓発
② 社内等における法令遵守の方針等の明確化
③ 表示等の根拠となる情報の確認
④ 表示等の根拠となる情報の(関連部署等との)共有
⑤ 表示等を管理するための担当者等の設置
⑥ 表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置の実施
⑦ 不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応
さらに、今回の調査報告書では、③表示等の根拠となる情報の確認に関して、一般消費者が表示の根拠となる情報を確認できるようにすることが望ましいとして、例えば、表示物に調査方法の概要を直接記載することや、それが難しい場合にQRコードにより確認できるようにすることを挙げています。
消費者庁は、今回の調査報告書内において、このような調査結果を踏まえて、不当なNo.1 表示等が疑われる事案に対しては、迅速な指導による是正を含めて、景品表示法に基づく厳正な対処が必要である旨に言及していますので、事業者が現状の把握と、不当表示等への体制整備のチェックが求められます。