令和5年5月17日、著作権の一部を改正する法律が成立しました。
この法律による改正は、
・著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設
・立法・行政による著作物等の公衆送信等の権利制限規定の見直し
・海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し
を内容とするものです。
今回は、著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設をご紹介します。
新たな裁定制度の概要
改正による新たな裁定制度は、一定の場合に、文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料の額に相当する額を考慮して文化長官が定める額の補償金を供託することで、当該裁定の定めるところにより、当該未管理公表著作物等を利用することを可能とするものです。
これにより、著作物等の利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できない場合に著作物等の利用が可能となります。
そのうえで、裁定後に著作権者等の申し出によりその意思が確認できた場合には、裁定制度による利用が停止することになります。
このように、今回の裁定制度により、著作権者等の意思が確認できない間の時限的な利用のみを認めることで、新たな裁定制度による利用の停止後は、著作権者等と利用者によるライセンス交渉等に移行することを想定しており、著作権者等による許諾の機会を失わせず、新たな利用機会を創出させる点が特徴とされます。
裁定制度の対象について
新たな裁定制度の対象となる未管理公表著作物等とは、公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物(以下「公表著作物等」という。)であって、次の①及び②のいずれにも該当しないもの(新法第67条の3第1項及び第2項)。
① 当該公表著作物等に関する著作権について、著作権等管理事業者による管理が行われているもの(新法第67条の3第2項第1号)
②文化庁長官が定める方法により、当該公表著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思を円滑に確認するために必要な情報であって文化庁長官が定めるものの公表がされているもの(同項第2号)
新たな裁定制度の要件
未管理公表著作物等の利用を認める裁定の要件は、次の①及び②のいずれにも該当することとされます
①当該未管理公表著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思を確認するための措置として文化庁長官が定める措置をとったにもかかわらず、その意思の確認ができなかったこと(新法第67条の3第1項第1号)
②著作権者が当該未管理公表著作物等の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないこと(同項第2号)
新たな裁定制度による利用期間について
新たな裁定において定める利用期間の上限期間は、3年間となります。
なお、引き続き要件を満たしている限り、新たな裁定制度による裁定を再度受けることで、当初の利用期間の経過後も著作物等の利用を継続することは可能です。
新たな裁定制度による利用の公表
新たな裁定制度では、文化庁長官は、裁定をしたときは、その旨、及び、著作物王を特定するために必要な情報やその利用方法、利用期間について、インターネットの利用その他の適切な方法により公表することとなります。
これにより、裁定前の意思の確認のための探索等の措置段階のみならず、利用後の著作権者等による請求の機会を確保することで、取消しの仕組みと併せて著作権者等の意思の尊重を図ることとしています。
補償金について
新たな裁定制度は、時限的にではあるものの、著作権者の許諾なく利用を可能にするものであるため、本制度による著作物等の利用については、補償金の支払いが必要となります。
補償金については、文化庁長官が決定し、その額の決定に当たり文化審議会へ諮問する必要があり、補償金は供託すること等が定められています。
この補償金に係る算定・決定手続き、また、その後の供託については、その手続きの煩雑さや手続きに要する時間が長くかかることが課題であると指摘されていました。そのため、手続きの迅速化・簡素化並びに適切な手続きを実現するため、補償金の算定に必要となる一般的な使用料相当額の算出事務や、裁定後の保証金の受領・管理について、文化庁長官による指定等の関与を受けた民間機関である窓口組織が担うことができるとされました。さらに、窓口組織による使用料相当額の算出を行わせる場合には、補償金の額の決定に当たっての文化審議会への諮問を不要とする合理化もなされています。
施行について
著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設については、公布から3年以内で政令で定める日からとなります。