独占禁止法が禁止する主な5つの違反類型

私的独占の禁止
 事業者が、他の事業者の事業活動を排除または支配することにより、競争を実質的に制限することです。

不当な取引制限
 複数の事業者が共同して、価格等の本来競争すべき事柄を相互に拘束することにより、競争を実質的に制限することです。カルテルや入札談合が典型例です。

不公正な取引方法の禁止
 公正な競争を阻害するおそれがある行為を禁止するものです。独占禁止法では、5つの類型が定められています(共同の取引拒絶・差別対価・不当廉売・再販売価格の拘束)。この他にも、独占禁止法に基づいて公正取引委員会が指定する違反類型として、抱き合わせ販売といった15類型が定められています。

事業団体の規制
 共通の利益の達成を目的とした複数の事業者により構成される連合体による、次の行為が規制対象となります。
・不当な取引制限や私的独占
・事業団体の構成事業者の機能または活動を不当に制限する行為
・新規参入事業者の阻止、既存の事業者を排除することにより、当該事業分野の事業者数を制限
・事業者団体が主導して事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせる

企業結合の規制
 企業結合(合併・会社分割・共同株式移転・株式取得・事業譲受・役人兼任)により、一定の取引分野における競争を実質的に制限することが規制対象となります。

 これらに違反した場合には、公正取引委員会により排除措置命令や課徴金納付命令といった行政処分のほか、損害賠償請求といった民事上の責任、懲役刑といった刑事上の責任が生じます。


私的独占の禁止

次の要件を満たす行為は、私的独占の禁止に該当するとして禁止されます。

単独又は他の事業者と結合・通謀などをすること
他の事業者の事業活動を排除又は支配すること
公共の利益に反すること
一定の取引分野における競争を実質的に制限すること

 

行為類型として、排除行為による私的独占(排除型私的独占)と支配行為による私的独占(支配型私的独占)に区別できます。

排除型私的独占
 排除行為とは、他の事業者の事業活動の継続を困難にさせたり、新規参入者の事業開始を困難にさせたりする行為であって、一定の取引分野における競争を実質的に制限することにつながる様々な行為(排除型私的独占ガイドライン)と指します。公正取引委員会では、行為開始後に置いて行為者が供給する商品のシェアがおおむね2分の1を超える事案であって、国民生活に与える影響が大きいと考えられるものを優先的に取り扱うとされています。

支配型私的独占
 他の事業者の事業活動を支配するとは、原則として何らかの意味において他の事業者に制約を加えその事業活動における自由なる決定を奪うことをいいます(東京高判昭和32年12月25日)。


不当な取引制限

 複数の事業者が共同して競争を回避した結果、一定の分野における競争が実質的に制限される場合を指します。複数の事業者間で契約すること以外にも、紳士協定や黙示的な共同行為も含まれます。

規制される行為

 独占禁止法では、「他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備もしくは取引の相手方を制限すること等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」と規定されています。すなわち、複数の事業者が共同して相互の事業活動を拘束したり(相互拘束)、事業活動を遂行したり(共同遂行)するで、一定の取引分野の競争を制限することをいいます。

主な要件

共同して行われること:複数の事業者間の意思の連絡が必要です。明示的な合意だけではなく、黙示による合意の場合も含みます。
事業活動を拘束すること:合意に従った場合に何らかの経済的メリットがあれよく、従わない場合に制裁がなくても認められます。
一定の取引分野に関するものであること:複数の事業者が合意した範囲が1つの一定の取引分野であるとされています
競争を実質的に制限すること:市場が有する競争機能を損なうことです(最判H24.2.20)

違反行為の期間

 違反行為は、複数の事業者間で合意が成立した時点から始まり、その合意が消滅するか、またはその合意から離脱することで違反行為が終わるまでの間、継続します。合意に基づいて競争が制限されている状態が継続している期間は、競争が実質的に制限されていると考えられます。


不公正な取引方法の禁止

不公正な取引方法とは、次の行為をいいます。

独占禁止法2条9項1号〜5号に該当する行為
独占禁止法2条9項6号イ〜ヘに該当する行為
公正な競争を阻害するおそれ

 不公正な取引方法の禁止においては、私的独占や不当取引の場合と異なり、公正な競争を阻害するおそれが認められることで足ります。マイクロソフト非係争条項違反(審判審決平成20年9月16日)では、おそれの程度について、競争減殺効果が発生する可能性があるという程度の漠然とした可能性の程度でもって足りると解するべきではなく、当該行為の競争に及ぼす量的又は質的な影響を個別に判断して、公正な競争を阻害するおそれの有無が判断されることが必要である、としています。

不公正な取引方法の行為類型

不公正な取引方法は、以下の行為類型に分けることができます。

取引拒絶型

共同の取引拒絶
その他の取引拒絶
取引条件等の差別的取扱い
事業者団体における差別的取扱いなど

不当対価型

差別対価
不当廉売
不当高価購入

取引強制型

欺瞞的顧客誘因
不当な利益による顧客誘引
抱き合わせ販売など

拘束条件型

排他的条件付取引
再販売価格の拘束
拘束条件付取引

搾取濫用型

優越的地位の濫用
取引の相手方の役員選任への不当干渉

取引妨害型

競争者に対する取引妨害
競争会社に対する内部干渉

事業者団体に関する規制

 複数の事業者で構成される事業者団体は、その活動が強い拘束力を持ち、単独の事業者との場合と比べて自由競争に及ぼす影響が大きくなる危険性が高いことから、一定の行為を規制されています。

禁止される行為

一定の取引分野における競争を実質的に制限すること
独占禁止法第6条に規定する国際的協定又は国際的契約をすること
一定の事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限すること
構成事業者(事業者団体の構成員である事業者)の機能又は活動を不当に制限すること
事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること

事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針

 公正取引委員会は、事業者団体の適正な活動に役立てるために、独占禁止法上問題となる事業者団体の具体的な活動についてのガイドラインを策定しています。

価格制限行為

 構成事業者が販売する商品の価格を決めたり、価格の引き上げ・引き下げを決めたること、再販売価格を拘束したりする行為です。

数量制限行為

 構成事業者が提供する商品の出荷数量を制限したり、原材料の購入制限・設備の運転制限などを通じた商品生産の制限、商品の生産数量の限度を定めるといった行為が挙げられます。

顧客、販路の制限行為

 構成事業者が他の事業者の顧客とは取引しないことにして、構成事業者の取引先を制限したり、各構成事業者が事業活動を行う地域や商品・サービスの種類を制限したり、事業者団体で受注を配分・受注予定者の選定方法を決めることが挙げられます。

設備または技術の制限行為

 商品開発のための設備の新設・増設・廃棄を制限したり、稼働量を制限することが挙げられます。

参入制限行為

 事業者団体に加入しなければ事業活動を行うことが難しい状況において、加入に際して高額な入会金・負担金を負担させたり、構成事業者やその取引業者に対して、ある特定の事業者に商品を供給しない・その事業者から商品を購入しないようにすることが挙げられます。

不公正な取引方法

 事業者団体が事業者に対して、不公正な取引方法に該当する行為(共同の取引拒絶や取引条件の差別的取り扱いなど)をさせることが禁止されます。

種類、品質、規格等に関する制限

 構成事業者が、特定の種類の商品・サービスを開発しないことを決めたり、特定の種類の商品のみを製造したりすること、事業者間で差別的な内容の自主規制を行うことなどが挙げられます。

営業の種類、内容、方法等に関する行為

 構成事業者の販売方法、表示や広告内容などを制限したり、自主規制等の利用・遵守を強制することが挙げれらます。

情報活動

 競争関係にある事業者同士が、事業者団体の情報活動を通じて、現在・将来の事業活動に関する価格などの競争手段の具体的内容について、お互いに予測が可能となるような場合は、重要な競争手段に関連する内容についての情報活動は禁止されます。

経営指導

 事業者団体が、構成事業者が提供する商品・サービスについて、統一的な基準を示すなどして原価計算を指導するといった、事業者の事業活動に関する価格などの目安となるような指導を行うことが挙げられます。

共同事業

 事業者団体が、構成事業者の共同による事業活動の性格を持つ事業を行う場合において、以下の行為が挙げられます。
  ①商品・サービスの共同販売、共同購入、共同生産
  ②共同運送や共同保管の事業を実施するに際して、対象となる商品の価格若しくは数量又は構成事業者の取引先に関与すること
  ③共同事業に関して、参加若しくは利用を強制し、または事業者間で差別的な取り扱いをすること


企業結合規制

 企業結合によって、一定の取引分野の競争が実質的に制限されるようになる場合には、その企業結合は制限されます。企業結合ガイドラインでは、複数の企業が株式保有、合併等により一定程度又は完全に一体化して事業活動を行う関係(以下、「結合関係」という)が形成・維持・強化されることにより、市場構造が非競争的に変化し、一定の取引分野における競争に何らかの影響を及ぼすことに注目して規制するものである、としています。独占禁止法では、以下の類型について企業結合を規制しています。

会社の株式取得・所有
役員の兼任
会社以外の者の株式取得・所有
合併
共同新設分割・吸収分割
共同株式移転
事業等の譲受け