令和3年3月、中小企業庁は、取引適正化のために知的財産に係る取引に関する問題事例や、大企業と中小企業間における不適正な取引慣行を踏まえて、これらの防止とともに、知的財産取引における企業間の共存共栄を推進する観点から、知的財産取引におけるガイドライン(以下、ガイドライン)及び契約書ひな形を作成しました。
そして、令和6年10月、ガイドライン及び契約書のひな形を改正しました。今回は、ガイドラインの内容をご紹介します。

ガイドラインの内容

このガイドラインでは、産業財産権や著作権に限らず、営業秘密・ノウハウ(有益なデータを含む)に至るまでの広義の知的財産を対象としています。そのうえで、取引の段階に応じて、知的財産にかかわる取引におけるあるべき姿を記載し、大企業と中小企業との間の対等な取引関係を実現するという観点から、注意すべき事項について特定の法令にかかわらずに整理しています。

改正の経緯

中小企業庁では、令和4年度から、知財Gメンを設置し、知財問題に特化してヒアリングを実施する体制を構築し、令和4年6月からは、「知財取引アドバイザリーボード」を設置して、ヒアリング事例を基に知財取引の適正化に向けた取組みを実施してきました。

そして、今回、知財Gメンによる調査の中で、発注者への納品物について、第三者との間に知財権上の紛争が発生した場合に、発注者が例外なく受注者側中小企業にその責任を転嫁できる可能性のある契約が締結されている事案が確認されました。他の発注者においても、類似の契約が幅広く存在する可能性があること、また、今後も類似の契約が新規に締結される可能性があることを踏まえ、発注者として注意すべきポイントを明確化するために、ガイドライン・ひな形が改訂されました。

カイドラインの改正ポイント

ガイドラインには、実際の取引において発生しうる様々なシチュエーションを想定しつつ、状況に応じた適切な責任分担の考え方や、帰責事由がない下請事業者が親事業者に対して行使すべき権利等について、詳細な解説を追記しました。具体的には、以下のとおりです。

紛争解決責任の分担の明確化

発注者の指示に基づく業務について、第三者との間に知的財産権に関する紛争が生じた場合、当該紛争の解決に係る責任や負担(以下、紛争解決責任)を受注者に例外なく一方的に転嫁させることや、その旨を契約に定めることは適正な取引とはいえません。例えば、当該紛争について、専ら発注者の決定による仕様等そのものが第三者が有する知的財産権を侵害している等、発注者にのみ帰責事由が存在するときは、発注者が自ら責任を負わなければなりません。また、受注者にも一定の帰責事由があるときは、発注者と受注者は、各々の帰責事由の内容や、各々が獲得した利益等を考慮した結果、正当といえる範囲で紛争解決責任を分担すべきであるという観点から、発注者は、こうした事情を考慮することなく、受注者に対し、一定の紛争解決責任を例外なく一方的に転嫁してはなりません。
そのため、以下の内容が明記されました。

・発注者が希望する目的物において第三者が有する知的財産権を侵害しないことの保証に係る責任の所在については、発注者、受注者間の明示的な協議の上で決定するものとし、受注者に例外なく一方的に保証責任を転嫁し、又はその旨を契約に定めてはならないこと
・発注者が希望する目的物の製造等に当たり、第三者が有する知的財産権を使用する必要があるときは、その使用に要する費用その他の負担を受注者に例外なく一方的に転嫁し又はその旨を契約に定めること。

第三者の知的財産権を侵害しないことの保証責任等についての考え方

上記の観点から、目的物について第三者が有する知的財産権を侵害しないことに係る保証責任、保証に係る調査の実施及びそれに要する費用その他の負担については、当該目的物の仕様等の決定において発注者、受注者各々がどのような役割を果たしたのか等の事情を踏まえ明示的に協議の上、適切に分担することとし、受注者に例外なく一方的に転嫁し、又はその旨を契約に定めではなりません。例えば、発注者が自ら目的物の仕様等を決定し、その決定に受注者が関与しておらず、かつ、第三者が有する知的財産権を侵害していないことに係る調査が必要となるときは、原則として、発注者が自らの負担で当該調査を行わなければなりません。

第三者との間に生じる知財訴訟等のリスクの転嫁についての考え方

受注者に帰責事由がないにもかかわらず、第三者が受注者を相手に訴訟を起こしたときは、原則として、発注者は、受注者からの、目的物の仕様等の決定に係る経緯や受注者に対する指示の内容等を開示する旨の要請や、当該紛争によって受注者に生じた第三者への損害賠償についての求償等に応じなければなりません。

発注者の指示についての明確化

上記の指示については、発注者が受注者に対し、第三者が有する知的財産権を含む仕様等を用いて目的物を製造等するよう明確に指示することにとどまらず、例えば以下のような、結果として第三者が有する知的財産権を侵害することとなるきっかけとなった行為も含まれます。いずれのケースにおいても、受注者は、書面等の形式(手書きのメモのような簡素なものを含む)で経緯の記録を残すことにより、自らに帰責事由がない旨を証明できるようにしておくことが望まれます。

以上の内容を踏まえて、発注者・受注者のいづれの側も、上記のような責任転嫁の条項が契約書に定められていないかを確認のうえ、必要に応じて契約内容の変更を検討する必要があります。
これから、自社の契約内容等をご検討の方は、ご相談ください。