近年、インターネット上での誹謗中傷や権利侵害が深刻化しており、社会問題となっています。このような状況を受け、令和6年には、情報流通プラットフォーム対処法(特定電子通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)(旧プロバイダ責任法)が成立しました。今回は、同法の概要を、ご紹介します。

改正の必要性

改正の背景には、インターネット上の誹謗中傷や権利侵害が深刻化している現状があります。特に、SNSや匿名掲示板などにおいて、匿名性を悪用した違法・有害情報の発信が後を絶ちません。

このように、インターネット上の違法・有害情報の流通が社会問題になっていることを踏まえ、被害者救済と発信者の表現の自由という重要な権利・利益のバランスに配慮しつつ、プラットフォーム事業者等がインターネット上の権利侵害等への対処を適切に行うことができるようにするための法制度が整備されました。

プラットフォーム事業者等の免責要件の明確化

プラットフォーム事業者等には、発信者の投稿に対して、被害者から削除の申し出があった場合において、削除しなかった場合には被害者に対する責任が生じる一方で、削除に応じた場合には発信者に対する責任が生じるケースがあります。これに対して、同法は、プラットフォーム事業者等が責任を負う場合を、以下のように規定しています。

○被害者に対する責任
情報流通プラットフォーム対処法第3条1項は、プラットフォーム事業者等が、権利侵害情報の流通によって損害を受けた者の損害について賠償責任を負うのは、以下のいずれかに該当する場合であると定めています。

  • 当該プラットフォーム事業者等が、権利侵害情報の流通によって権利を侵害されたことを知っていたとき
  • 当該プラットフォーム事業者等が、権利侵害情報の流通によって他人の権利が侵害されたことを知り得たと認めるに足る相当の理由があるとき
  • 当該プラットフォーム事業者等が、権利侵害情報の発信者である場合

○発信者に対する責任
一方、同条2項は、プラットフォーム事業者等が、情報の送信を防止する措置を講じた場合において、その措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、以下のいずれかに該当するときは、賠償責任を負わないと規定しています。

  • 権利が不当に侵害されていると信じるに足る相当の理由があるとき
  • 発信者に削除に同意するか照会したが7日以内に反論がないとき

発信者情報の開示請求・発信者情報開示命令事件に関する裁判手続

権利侵害情報の流通によって損害を受けた者が、プラットフォーム事業者等に対して、権利侵害情報の発信者を特定して損害賠償請求等を行うことができるように、発信者情報開示請求権を定めています(同法5条)。
これにより、氏名・住所・電話番号・電子メールアドレス・IPアドレス等が開示の対象となります(同法施行規則2条・3条)。

また、元来2回の手続きを要する発信者情報の開示を一つの手続きで行うことを可能とする裁判手続(非訟事件手続き)を定めています(同法8条以降)。

大規模プラットフォーム事業者の義務

同法において、大規模プラットフォーム事業者に対して、対応の迅速化と運用状況の透明化の規律が創設されました。

まず、大規模プラットフォーム事業者とは、迅速化及び透明化を図る必要性が特に高い者として、権利侵害が発生するおそれが少なくない一定規模以上等の者を指します(同法第20条、同法施行規則第8条)。

削除対応の迅速化

大規模プラットフォーム事業者は、削除対応の迅速化のために

・削除申出窓口の整備・公表(同法第22条)
・削除申出への対応体制の整備(同法第24条)
・削除申出に対する判断・通知(同法第25条)

が必要となります。

このうち、削除申出窓口の整備・公表(同法第22条)については、同条第2項において、
①電子情報処理組織を使用する方法による申出を行うことができるものであること
②申出を行おうとする者に過重な負担を課するものでないこと
③申出を受けた日時が申出者に明らかとなるものであること
が求められています。

そして、②の「申出を行おうとする者に過重な負担を課するものでないこと」としては、以下のような具体例が挙げられます(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律における大規模特定電気通信役務提供者の義務に関するガイドライン(R7.3.11制定))。

ア)トップページから少ないクリック数でアクセスできる等、申出フォームが見つけやすいこと。
イ)文字制限のない文章記入欄が設けられている、証拠が添付可能である等、十分に情報提供が可能な申出フォームとなっていること。
ウ)アカウント非保有者であっても申出を行うことができること。
エ)申出先以外の第三者との関係で、申出者のプライバシー等の権利・利益の侵害を生じさせない形で、申出を行うことができること。
オ)申出を行ったことを理由として、申出以後のサービス利用に当たって不利益を受けないこと。

次に、削除申出への対応体制の整備(同法第24条)のために、大規模特定電気通信役務提供者は、侵害情報に係る調査のうち、専門的な知識経験を必要とするものを適正に行わせるため、特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害への対処に関して十分な知識経験を有する者のうちから、侵害情報調査専門員を選任する必要があります(同ガイドライン)。

そして、削除申出に対する判断・通知(同法第25条)として、大規模特定電気通信役務提供者は、法第 25 条第1項により、申出を受けた日から 14 日以内の総務省令で定める期間内に、申出者に対し、侵害情報送信防止措置を講じた場合にはその旨、侵害情報送信防止措置を講じなかった場合には講じなかった旨及びその理由を通知しなければなりません(同条1項)。ただし、申出者から過去に同一の内容の申出が行われていたときその他の通知しないことについて「正当な理由」(同項ただし書)があるときは、除外されます。「正当な理由」とは、例えば、申出者が申告した連絡先に誤りがあり、申出者への連絡が不可能な場合が挙げられます。

運用状況の透明化

大規模プラットフォーム事業者は、運用状況の透明化のために

・削除基準の策定・公表(運用状況の公表を含む)(同法第26条・同法第28条)
・削除した場合、発信者への通知(同法第27条)

が必要となります。

削除基準の策定・公表に関しては、総務省が令和7年3月11日に制定した「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律第26条に関するガイドライン」において、他人の権利を不当に侵害する情報の送信を防止する措置(同条第1項2号)が例示されています。
また、同法28条が定める措置の実施状況等の公表にあたり、申出理由等の別に応じて区分の上公表することを求められている公表項目については、可能な限り本ガイドラインの分類に基づいて区分する対応が求められます。

さらに、大規プラットフォーム事業者は、送信防止措置を講じたときは、遅滞なく、その旨及びその理由を、当該情報の発信者に対して通知するか又は発信者が容易に知り得る状態に置く必要があります(同法27条)。

罰則等

総務大臣は、大規模プラットフォーム事業者が、定められた規定に違反した場合には、その違反を是正するために必要な措置を勧告することができ、仮に、当該勧告に従わなかった場合には、是正措置を命ずることができます(同法第30条)。
そして、大規模プラットフォーム事業者が当該是正措置に違反した場合には、違反行為をした者は1年以下の拘禁系又は100万円以下の罰金(同法35条)となり、法人の代表者若しくは人の代理人、使用人その他の従業員が、その法人又は人の業務に関して、その違反行為をしたときは、その法人に対しては1億円以下の罰金刑となります(同法37条)。

このように、今回の法改正におより、大規模プラットフォーム事業者に対して、一定のルールが規定されたことによって、権利侵害情報の投稿の削除が期待されます。