平成24年・令和2年著作権法改正

デジタル・ネットワーク技術の進展により、著作物をめぐる社会環境が変化するなかで、文化審議会著作権分科会において、著作権の権利制限に関する検討が行われ、平成23年1月に報告書が作成されました。
この報告書では、いわゆるフェアユース規定のような、一定の包括的な考慮要素を定めた上で、権利制限に該当するかどうかは裁判所の判断に委ねるという方式の権利制限規定を設けるのではなく、個別権利制限規定の改正又は創設を検討することが適当とされました。
そのうえで、平成24年の改正において、権利制限規定として付随著作物の利用(著作権法30条の2)が設けられました。
その後、令和2年には、文化審議会著作権分科会により、写り込みに係る権利制限規定の拡充に関する報告書が作成されました。この報告書では、平成24年改正後、スマートフォンやタブレット端末等の急速な普及に伴ってスクリーンショットがごく日常的に行われることや、動画投稿・配信プラットフォームを活用した個人による生配信が容易になるなど、社会実態が大きく変化したことを踏まえて、条文上、適法となる利用の範囲を明確化・拡充することが提言されました。そして、令和2年改正により、写り込みに係る権利制限規定の対象範囲が拡大されました。

著作権法第30条の2第1項

対象行為について

平成24年改正時には、「写真の撮影」「録音」「録画」に限定されていたのに対し、令和2年改正において、「写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し、又は複製を伴うことなく伝達する行為」が対象行為とされました。これにより、生配信やスクリーンショットの場合の写り込みが対象に含まれることになりました。

対象となる著作物について

対象となる著作物は、「その対象とする事物又は音・・・に付随して対象となる事物又は音・・・に係る著作物」と規定されており、メインの被写体(=写真の撮影等の対象とする事物又は音)に付随するものであれば、広く同条の対象となります。

平成24年改正時は、「写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物」と規定され、メインの被写体から①分離することが困難であるため(分離困難性)、②付随して対象となる他の著作物(=付随対象著作物)に限定されていました(付随性)。

もっとも、この規定の正当化根拠は、その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生じる利用であり、利用が質的又は量的に社会通念上軽微であることが担保されるのであれば、権利者の利益を不当に害しない点に本質があります。そうすると、付随性が重要な要件となり、分離困難か否かを要件とする必要はないと考えられます。
それゆえ、令和2年改正において、対象となる著作物が、メインの被写体から分離することが困難である必要はなくなりました。その一方で、濫用的な利用を防止するために、「当該付随対象著作物の利用により利益を得る目的の有無、・・・・その他の要素に照らし正当な範囲内において」利用することができる、と規定されました。

また、平成24年改正時は、付随対象物は、メインの被写体の軽微な構成部分に限定されていました。
この要件は、著作権者にとって保護すべきマーケットと競合する可能性が想定しづらい(したがって権利者の利益を不当に害しない)ことを担保するために設けられていました。
もっとも、軽微な構成部分といえるか否かは、写真等全体に占める当該著作物の面積の割合だけで判断されるものではなく、画質、音質、利用時間(録音・録画等の場合)、作品全体のテーマとの関係での重要性等を総合的に考慮して社会通念に基づき判断されることになります。
そこで、令和2年改正において、この点が条文上明確になりました。

対象となる支分権について

平成24年改正時は、対象行為が写真の撮影・録音・録画に限定されていたため、複製・翻案のみが規定されていました。
一方、令和2年改正において、対象行為が拡大されたことに伴い、公衆送信(送信可能化を含む)や演奏・上映等を広く含める観点から、「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」という形で包括的な規定となりました。

著作権法第30条の2第2項

本条第2項は、本条第1で作成された付随対象著作物が写り込んだ作成伝達物の利用に伴って生じる「付随対象著作物」利用行為に関する規定になります。
「いずれの方法によるかを問わず」と規定されており、全ての支分権を対象としているため、広く利用行為が権利制限の対象となります。