2022年3月に、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が公表されました。
そして、2023年10月、金融庁から「中小企業の事業再生等に関するガイドライン事例集」が公表されました。そこで、今回はこの事例集の概要をお伝えします。
中小企業の事業再生等に関するガイドライン
中小企業の事業再生等に関するガイドラインは、中小企業の事業再生等に関する基本的な考え方を示したもので、できるだけ迅速かつ柔軟な事業再生等に取り組むことができるよう、新たな準速型私的整理手続きとして定められました。
2022年度の事業再生計画・弁済計画の合意成立件数
2022年度、官民金融機関(日本公庫・商工中金・銀行・信用金庫・信用組合)において、債務減免を含む再生型が11件、債務減免を含まない再生型が8件、廃業型が9件、合計28件の事業再生計画・弁済計画が合意されました。
事業再生支援の方法
債務減免を含む再生支援として、①債権の時価譲渡、②第二会社方式、③グループ企業一帯での事業再生支援が記載されています。
また、債務減免を含まない再生支援として、④リスケジュール、⑤DDSによる事業再生支援、さらに⑥ガイドラインを活用した円滑な廃業支援の事例が記載されています。
①債権の時価譲渡による事業再生支援
再生計画の概要は、債務者の株式及び保証人所有の事業用不動産をスポンサーに譲渡後、会社に対してスポンサーから新規投資するスキームにより、不動産等の担保処分後の非保全債権について、スポンサーへ時価で譲渡し、額面との差額(1.4億円)を事実上放棄するという支援が行われたという内容です。
ここでは、債権の時価譲渡といった事例にもガイドラインが適用可能であることが触れられています。
②第二会社方式による事業再生支援
いわゆる第二会社方式により、債務者の事業をスポンサーが新たに設立した新会社に譲渡し、スポンサーからの譲渡対価や不動産等の担保処分による弁済後の非保全金額について債権放棄を実施するという支援が行われた事例が5例、記載されています。
このように、ガイドラインでの利点(裁判所を利用する場合の予納金が不要であること、比較的短期間でフロージング可能なこと、事業者等の信用毀損を最小限に抑えられること)が、具体的な事例を踏まえて指摘されています。
③グループ企業一体での事業再生支援
第二会社方式により、債権放棄を含む再生支援によりグループ企業の事業譲渡が実施された事例が、2例記載されています。
②第二会社方式による事業再生支援で言及されたガイドラインの利点に加えて、スピーディーな合意形成により、、地場の雇用維持や取引先の連鎖倒産を回避することができ、地域経済の安定に寄与することができた事例とされています。
④リスケジュールによる事業再生支援
リスケジュールによる事業再生支援が実施された事例が、4例記載されています。
うち、1例は、既に第二会社方式による債務減免という金融支援が実施されており、さらに踏み込んだ対応が難しいケースにおいて、ガイドライン適用によるリスケジュール支援が行われた事例が記載されており、ガイドライン活用のポイントとされています。
⑤DDSによる事業再生支援
DDSによる事業再生支援が実施された事例が、2例記載されています。これらの事例においても、時間的な負担が少なく、比較的短期間での計画策定、支援が実現したことが記載されています。
⑥ガイドラインを活用した円滑な廃業支援
ガイドラインを活用した円滑な廃業支援の事例が、5例記載されています。
このなかでは、仕入先や従業員での未払いなく円滑に廃業できた事例や、特許権の換価処分により弁済資金を確保した事例、自動車のリース債権について、当初は金融債権から除外されていたものの、最終的には計画に織込まれた事例が記載されています。
また、この事例における保証人は、経営者保証ガイドラインにより一定程度の財産を残すことができています(債務減免がない再生型を除く)。
新型コロナウイルス感染症の悪影響の長期化により、公租公課の滞納が発生する等、事業継続が見通せない状況に陥った企業が多く挙げられています。ガイドライン策定から1年半程度が経過し、今回の事例集も踏まえて更なるガイドラインの活用が期待されます。
ガイドラインの適用を検討する場合には、お早めに弁護士等への相談をお勧めします。